今日の神坂課長は、総務部の西村部長、営業部の佐藤部長と3人で京都観光をしているようです。

西村部長と佐藤部長が最も楽しみにしている大覚寺を訪れる前に、清涼寺を訪れるようです。

「この釈迦堂には、国宝の釈迦如来像があるんだよ。ほら、あそこにいらっしゃる」

「西村さんは詳しいですよね。おー、なんだか変わった仏像ですね」

「この仏像は今から1,000年以上前に、中国で造られた古代インドの様式の仏像なんだ。この衣文線が同心円状に表現されているのが特徴でね、この仏像を真似たいわゆる清涼寺式仏像が日本各地で造られているんだよ」

「たしかに、日本の仏像とは違いますよね」

「西村さん、たしかこの釈迦堂は、徳川第五代将軍綱吉の生母である桂昌院が作らせたのですよね?」

「そうだよ。だから、ほらあそこには桂昌院が使ったゆかりの品々が収蔵されているんだよ」

「こういう遺品が大切に保管されているんですね」

「父母の遺品は子孫が大切に愛護するべきだ、と一斎先生も言っているからね」

「諸外国では金目の物は死後に売られてしまったりすることも多いようだけど、それはどうかと思うよなぁ」

「西村さんは、お父様の遺品をなにかお持ちなんですか?」

「ああ、三年前に亡くなったときに遺品をいろいろと整理していてね。親父が愛用していた万年筆を譲り受けることにしたんだ。今日は持っていないけど、仕事では使わせてもらっているよ」

「それはお父さんもお喜びでしょうね」

「神坂君はまだご両親は健在なんだよね?」

「はい。ただ、兄が半年前に急死しました。実は、私も兄が使っていた革の手帳を遺品としてもらいました。手帳には兄の字も残されているので、大切に保管しています」

「ああ、文字を残すのはとても良いことだね。私も父からの手紙を何通か大切に保管しているよ」

「前から思っていたんですけど、『なんでも鑑定団』とかいう番組があるじゃないですか。あれでお宝にとんでもない金額がつくときがありますよね。知らなければそのまま保管しておくのでしょうが、高額がつくと金に目がくらむ人がいるんじゃないかと思ってしまいます」

「ははは。すべてが遺品という訳ではないからねぇ。でも、かならず鑑定士の方は『大切に保管してください』と言うよね」

「佐藤部長もあの番組は観ているのですね。まあ、余計なお世話ですね」

「こうやって遺品を目にすると、歴史上の人物が身近に感じないかい? ああ、たしかに実在していたんだなぁってね」

「本当ですね、西村さん。やっぱり歴史的な文化財に触れるということは良いことですね」

「そうだろう。さあ、それでは本日のメインイベント。大覚寺に行こうか?」

「はい。大覚寺には何があるんですか?」

「あそこには、幾人かの天皇が書いた般若心経が保管されているんだ。今回、今からちょうど1200年前に書かれた嵯峨天皇の勅封の心経がお披露目されているんだよ。これを逃したら次は60年後だぞ」

「それじゃ、今回を逃すと、西村さんと佐藤部長はもう見れないですね」

「何言ってるんだよ。神坂君だって無理だろう」

「いや、私は101歳ですから、まだ可能性はあります」

「それならわからんぞ。私だって、116歳だから可能性がないわけじゃない」

「そこまで生きたら妖怪ですよ」

「だれが妖怪や!」


ひとりごと 

先日、大学の先輩とここに出てくる清涼寺と大覚寺を訪れました。

1200年前に書かれた嵯峨天皇の直筆の般若心経をこの目でみて大変感動しました。

今から1200年前に疫病が流行したため、嵯峨天皇は紺地に金泥で一字三礼の誠を尽くし、つまり一文字覚悟とに般若心経を三度唱えながら書き上げたそうです。

そしてこれが浄書されると、たちまち疫病は治まったと言われています。

まだ公開中です。

観られていない方は是非、大覚寺を訪れてみてはいかがですか?


原文】
父母の遺せる衣服器玩(きがん)は、子孫たる者、当に之を愛護して以て追慕を忘るること無かるべし。決して手を脱して人に贈るの理無し。今、喪家(そうか)遺物を分贈す。漢土も亦輓近、孝市孝帛(こうはく)有り。並に弊俗なり。金の世宗の宋の遺物を卻(しりぞ)けしは、亦見る有り。〔『言志録』第232条〕

【意訳】
父母の遺した衣服や道具類は、子孫の者は、これを大切にして、つねに父母を慕い忘れないようにすべきである。決して手放して人に贈ったりなどしてはいけない。最近は人がなくなるとその家の者は遺品を分け与えるようになっている。支那においても木綿や絹の織物を分与している。ともに悪い習慣である。金の世宗が宋の皇帝の遺品を返品したという逸話から、世宗は見識のある人だと言える

【ビジネス的解釈】
親族やお世話になった人の遺品は、いつまでも大切に保管しておくべきだ。多くの人に分け与えるようなことは、良い習慣とは言えない。


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