神坂課長のデスクに、石崎君がやって来ました。

「課長、昨日の勉強会で教えてもらったB社さんの新製品をさっそく今日からPRしようかと思います」

「石崎、しっかり3分間の製品紹介バージョンを完成させたのか?」

「それはまだです。でも、忘れないうちにまず実践で、お客様のところで話をしながら作り上げようかと思っています」

「先月の勉強会で取り上げた製品も同じパターンでPRしたんだよな? どれくらい商談になったんだ?」

「え、それは・・・」

「今月は大丈夫なんだろうな?」

神坂課長がジロリと石崎君を見つめました。

「午前中のうちに、3分間製品紹介を作り上げて、午後からお客様のところに行ってきます!」

石崎君と入れ替わりに、善久君がやって来ました。

「課長、昨日の勉強会で教えてもらったB社さんの新製品をさっそく今日からPRしようかと思います」

「おお、そうか。すぐにでも行ってこい!」

「はい。行ってきます!」

善久君が去った後、新人の梅田君が神坂課長のところにやって来ました。

「神坂課長、ちょっとよろしいですか?」

「どうした、梅田」

「はい。今さっきのことですが、石崎さんが昨日の勉強会の製品をPRに行くと言ったときは、課長はしっかり準備をしろと言いましたよね。それなのに、同じことを善久さんが言ってきたら、すぐに行けと言われました。まったく逆のアドバイスをされているように見えたのですが、どういうことですか?」

「ははは。梅田には俺のアドバイスの軸がブレているように思えたのか? しかし、そうではないぞ。もうお前も二人の先輩の性格はわかってきただろう。石崎という男は、すぐに行動できる点は長所だが、あまりにも無防備に営業をやり過ぎる。それで、せっかく良い製品をPRしても、お客様に伝わらないんだ。つまり、準備不足のまま、営業活動を繰り返しているんだよ」

「はい、なんとなくわかる気がします」

「だから、準備の大切さに気づいて欲しかったんだ。ところが善久に同じアドバイスをしてみろ、あいつは1週間でも2週間でもずっと3分間製品紹介を考え続けて、気がついたら来月の勉強会の時期になっているというタイプの男だ。あいつには、すぐに行動させて、実践の中で学ぶことの重要さに気づいて欲しかったんだよ」

「なるほど」

「だから、俺のアドバイスは真逆だったかも知れないが、俺の指導の軸はまったくブレていないんだ。二人に立派な営業マンになってもらいたいという熱い想いはまったく同じだからな」

「すげえな、課長。石崎さんが課長のことを、『カミサマって呼んでいる意味がわかりました!」

梅田君の発言を聞いて、山田さんと本田さんが頭を抱えています。

「ばかやろう! 石崎が俺を『カミサマと呼ぶときは、100%俺を馬鹿にしているときだ!」

「す、すみません。でも、課長」

「なんだよ」

「課長は、まだ私の性格は把握してくれていないようですね。私はこう見えても、実は打たれ
弱いんです」

「知るか!」


ひとりごと 

医師が患者の病状をよく診察し、診断を確定してから、その病状に最適な薬を投与します。

これを「応病与薬」と言います。

同じようにリーダーも、メンバー一人ひとりの性格を把握し、最適なアドバイスを与える必要があります。

いつも同じことを言い、同じアドバイスを繰り返すだけではマネジメントはうまく行かないのです。


原文】
孔門の学は、耑(もっぱ)ら躬行に在り。門人の問目、皆己の当に為すべき所を挙げて之を質せり。後人の経を執りて叩問(こうもん)するが如きに非ず。故に夫子の之に答うることも、亦人人異なり。大抵、皆偏を矯(た)め、弊を救い、長を裁ち、短を補い、以て諸を正に帰せしむるのみ。譬えば猶お良医の症(やまい)に対して剤を処するがごとし。症は人人異なり。故に剤も亦人人異なり。懿子・武伯・子游・子夏問う所は同じくして、答は各おの同じからず。亦以て当時の学を想う可し。〔『言志録』第234条〕

【意訳】
孔子一門の学問(原子儒教)は、主に実践を重んじている。弟子が問うことも皆自分自身が為さねばならないことを質している。後の儒者のように、経典を崇めて問いただすようなものではない。だから、孔子の弟子達への応答も一人ひとり異なっている。偏りを矯正し、弊害から救い、出過ぎたところを絶ち、短所を補うことで、弟子たちを教え導いているのだ。例えば良医が病気に応じて薬を変えるようなものである。病状は人によって異なるのであるから、当然与える薬も人に応じて変えるべきであろう。懿子・武伯・子游・子夏が「孝」について質問したときも、答えは相手によってすべて異なっている。これをもって当時の学問をよく考えてみるべきである

【ビジネス的解釈】
学問というものは、実践に活用できなければ意味がない。人間の性格は十人十色であるから、リーダーがメンバーに対してアドバイスをするときは、相手に合わせてすべて指示内容を変えるべきである。

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