今日の神坂課長は、休日を利用していつもの喫茶店で個室を予約したようです。

「なるほど、一斎先生は読書の心がけをこんな風に捉えているのか」

神坂課長は、『言志録』を持ち込んでいるようです。

第一には、己の心で主体的に著者の志を汲み取る』。たしかに、読書は受身ではなく、主体的に読む必要があるよな。実践に生かせなければ意味がないからな」

「『第二には、経書などの書物に書かれていることのすべてを妄信しないなるほど、主体的に読むには著者の言うことを妄信するのは危険なんだよな。ただし、はじめから斜に構えて本を読みたくはないよな。素直な心でいったん受け入れて、その後で十分咀嚼して取捨選択すべきなんじゃないかな」

コーヒーと一緒に注文したパンケーキを頬張りながら、メモをしています。

「『第三には、古人である著者を知るため、その時代を考察し明らかにする』。そのためにも、著者がどんな背景でその言葉を生み出したのかを把握する必要はあるよな。時代背景というのは、読書をする上では意外と重要なファクターなんだろうなぁ」

神坂課長は、持参したもう1冊の本、『論語』に目をやりました。

「そういえば、『論語』を理解するときは、孔子がその言葉を発したシーンを想像するべきだ、とサイさんが言ってたな」

「孔子は、相手に合わせて言い方や中身をガラリと変えるからなぁ。たしかそういうのを『応病与薬』と言うんだったな。病気に合わせて薬を変えるイメージか」

読書会のノートを開いて、振り返りをしているようです。

「それにしても孔子はすごい人だよなぁ。相手に合わせて、瞬時に相手の心に最も響く言い方を見つけ出すことができるんだからな」

「それに比べて俺なんか、誰に対しても同じ言い方しかできないものな」

「しかし、この一斎先生の言葉によると、著者を知ることが大切だと言っているから、俺も孔子の伝記を読むと良いのかもしれないな」

「ああ、そういえばちさとママが言ってたな。ママがバイブルとして大切に読み込んでいる本には、人間が伝記を読む時期が三度あるって」

神坂課長は別のメモ帳を取り出しました。

「ママには内緒だけど、ママが言った名言は後で思い出してここにメモしているんだよね。あ、あった。まず最初が十二~十八歳くらいまで、二度目が三十五歳~四十歳前後となっている。まさに今の俺じゃないか。あと一回は、六十歳前後か」

残りのパンケーキを一口で食べ終え、神坂課長は立ち上がりました。

「そういえば、今まで伝記って読んだことがなかったな。よし、本屋に行って孔子ともう一人誰かの伝記を買ってみよう」

会計を終えた神坂課長は、喫茶店の扉を開けて外に出ました。

秋のすこし冷たい空気を感じながら、行きつけの書店まで歩いていくことにしたようです。

「そして、いつかは自分の伝記、自分史っていうのかな? それを書き上げてみようかな」


ひとりごと 

ビジネスマンが読書をする目的は、知識を増やすことではないはずです。

あたらしい知識や知見を得たら、それを仕事やマネジメントに活かなければ意味がありません。

あくまでも読書は目的ではなく手段です。

最終的にお客様のお役に立つことや、メンバーがやりがいを持って働ける環境を生むことができてこそ、本を活学できたと言えるのです。


【原文】
読書の法は、当に孟子の三言を師とすべし。曰く、意を以て志を逆(むか)う。尽(ことごと)くは書を信ぜず。曰く、人を知り世を論ずと。〔『言志録』第239章〕

【意訳】
読書をする時は、孟子が言った三つの箴言を参考にすべきであろう。つまり、第一には、己の心で主体的に著者の志を汲み取る。第二には、経書などの書物に書かれていることのすべてを妄信しない。第三には、古人である著者を知るため、その時代を考察し明らかにする、ということだ

【ビジネス的解釈】
ビジネスマンにとって読書は必須のものである。
ただし、以下の点に留意して読むべきだ。
第一、これまでの既成概念にとらわれず、著者の心に自分の心を重ね合わせるように読む。
第二、書かれた内容を妄信せず、広い視点をもって読む。
第三、著者の人となりや、その生きた時代を理解して読む。


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