S急便の中井さんが荷物を持ってきてくれたようです。
「毎度、S急便です。あ、佐藤さん、いつもお世話になります」
「ああ、中井君。いつも元気でいいね」
「ありがとうございます。それだけが俺の唯一の自慢ですからね」
「そんなことないよ。勉強熱心なところも素晴らしいなと思うよ」
「そんなに褒めてくれても、何も出ませんよ。稼ぎの少ない運送屋ですから! あ、そうだ。佐藤さん、5分くらい時間ありませんか?」
「いいよ。どうしたの?」
2人は喫茶コーナーに移動したようです。
「実は、また馬鹿なりに悩んでいましてね。佐藤さんにいろいろな本を借りたり、教えてもらったりして読んでいるんですけど、読めば読むほど、いったい運送屋の使命って何なのかがわからなくなってくるんです」
「ほお、それはまた大きな命題だね」
「だって、いくらお客様のことを考えても、結局は価格競争に巻き込まれて、いかに単価を上げるかとか、どれだけたくさん配達できるかだけを考えなければならないんです。身体はボロボロな上に、なんだか最近は心も満たされないんですよね」
「なるほどね。そう言われれば我々の仕事も似たようなところがあるよ。やはり営業としての効率アップや単価アップは大きな課題だからね。それでいて、しっかりとお客様の課題解決をお手伝いしなければならないんだから、大変なことだよね」
「ああ、そうか。同じなんですね。しかし、どうすればいいのかなぁ?」
「そんなとき、古の偉人たちはどうしていると思う?」
「え、どうしてるのかな? その頃に宅配マンや営業マンがいたとは思えないですからね」
「ははは、それはそうだね。中国の古典にでてくる偉人たちをみるとね、大きな共通点が2つあるんだ」
「教えてください」
「ひとつは、強い想いをもつこと。そして、もうひとつは日々時間を惜しまずに働くこと。この2点だけはすべての偉人に共通しているんじゃないかな」
「なるほど。それを聞くと、自分はどっちも中途半端に思えてきました。お客さんのためより自社の売り上げのことを考えていたように思うし、そんな風に悩んでいるだけで、なにひとつ具体的な行動ができていなかったなぁ。やっぱり俺は馬鹿なんだから、考えるより行動を重視しないとダメなんだな」
「そうだね。熱い想いをもって、日々たゆまず行動すれば、先ほどの命題への答えは見えてくるんじゃないかな? ウチの神坂は、とにかくお客様の役に立つと思えば、休日だろうと真夜中だろうとすぐに行動する男でね。そのせいだと思うけど、信頼してくれているお客様とはほとんどお金の話をしないんだよ」
「おお、やっぱり神坂さんは只者じゃないんだな。久しぶりに同志と酒を酌み交わしてみるかな!」
ひとりごと
なにかを成し遂げるには、
1.何を成し遂げるかを明確に心に抱き、熱く思い続けること
2.そして具体的な行動に移すこと
この2つしかないと、古の偉人は教えてくれています。
彼らは、為すべきことのために時間を使い切った人たちです。
我々にとって一番の資源である時間をどう有効活用するかが重要なのでしょう。
【原文】
自ら彊(つと)めて息(や)まざるは天の道なり。君子の以(な)す所なり。虞舜の孳孳(じじ)として善を為し、大禹の日に孜孜せんことを思い、成湯の苟(まこと)に日に新たにし、文王の遑暇(こうか)あらざる、周公の坐して以て旦を待てる、孔子の憤を発して食を忘るるが如き、彼の徒らに静養瞑坐を事とするのみなるは、則ち此の学脈と背馳(はいち)す。〔『言志後録』第2章〕
【意訳】
自ら勉めて休むことなく動いているのが天の道である。そしてそれは君子の踏むべき道でもある。たとえば、舜帝が朝から晩まで善行をなそうとしたのも、夏の禹王が日々一所懸命に善を尽くそうとしたのも、殷の湯王が日々徳を新たにすると記したことや、周の文王が朝から晩まで食事をする暇がなかったということや、周公旦が夜中に良いことを思いついたときは、朝を待って即実行に移したことや、孔子が学ぶことのために発憤して食事をするのも忘れて努力したということなどは、その例といえるであろう。ただ徒に静かに心身を養い、眼を閉じて坐っているだけで良いとする考え方は、吾々の学はとは全く相容れないものなのだ。
【ビジネス的解釈】
日々休むことなく行動することが成功の秘訣なのだ。過去の聖人たちは皆、時間を無駄にすることなく、自分の為すべきことを為してきた。ただ、考えているだけで行動しなければ、何も変えることはできないのだ。