「神坂課長、また椅子を出しっ放しですよ」

「うるせぇな、クソガキは。ちょっとコピーを取りにきただけじゃないか!」

「たとえ数秒だろうと、見る人は見ていますからね」

「石崎、お前はいつから俺の小姑になったんだ」

「私は、この会社に入って、佐藤部長から教えられたことを徹底しているだけです。神坂課長のことを心配して言ってあげているんですよ」

「ああ、そうですか。それはどうも」

「『どうも』で止めずに、最後まで言いましょうよ。それに、『クソガキ』という呼び方もいかがなものかと?」

「ちっ、面倒くさい奴だな。『石崎さん、どうもありがとう』」

「はい、よろしい。会社でできないことは、客先でもできませんからね

「そういえば、昨日の飲み会のときに靴箱をみたら、何人かの靴が出船(*)に揃っていなかったな」

「ああ、あれは雑賀さんと湯浅君ですよ」

「お前いちいちチェックしていたのか!?」

「課長も気づいたなら直してくださいよ。僕が全部直して、お二人には注意しておきましたから」

「お前、そのうちみんなから嫌われるぞ」

「そんなの逆恨みです。私は自分が正しいと思うことをやります。だって、全部つま先がこちらを向いている下駄箱は美しいじゃないですか」

「まあな」

「それに・・・」

「まだあるのかよ!」

「課長は声がデカ過ぎます。となりのテーブルの女性が露骨に嫌な顔をしていましたよ。僕が謝っておきましたけどね」

「酒の席くらい、楽しませてくれよ」

「品格を問われるような行為は慎みましょう。お客様が同じお店に居ないとも限らないんですから!」

「わかってるよ。でも、そんなに下品だった記憶はないけどなぁ」

「本気で言ってるんですか!? 飲み会での課長のネタはほぼ100%下ネタですからね!!」

*出船に揃える:靴箱に靴をしまう際に、つま先をこちら側にしてしまうこと。


ひとりごと 

行動や言動を慎むことは、社会人としての嗜みです。

しかし、他人がいるときだけ意識をするというのでは、不十分でしょう。

やはり、慎独を心がけねばなりません。


原文】
吾人は須らく自重を知るべし。我が性は天爵(てんしゃく)なり、最も当に貴重すべし。我が身は父母の遺体なり、重んぜざる可からず。威儀は人の観望する所、言語は人の信を取る所なり、亦自重せざるを得んや。〔『言志後録』第6章〕

【意訳】
われわれは自らを慎むことを知るべきである。人間の本性は天から与えられたものであり、一番重視すべきものである。また自分の身体は父母の遺体といってよく、当然尊重しなければならない。自身の起居行動は人が観察するところであり、言葉は人がそれをもって信頼するかどうかを判断するものであり、慎まないわけにはいかない

【ビジネス的解釈】
ビジネスマンとして成功するためには、内面と外面の双方を慎まなければいけない。特に行動と言葉は他人から観察され、信頼関係を築く上で極めて重要であるだけに、より慎重でなければならない。


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「横山験也のちょっと一休み」より
http://www.kennya.jp/sahou/gennkannno_kutu/