石崎、善久、願海の2年生トリオが飲み会をしているようです。

「あれ、ゼンちゃん、なんだか元気がないね」

「ガンちゃん、わかる? 今すごく悩んでいるんだ」

「仕事? 女? 男?」

「ザキ、男ってなんだよ! 仕事だよ、仕事!」

「どんなことで悩んでいるの?」

「ガンちゃん、聞いてくれる。楽しい飲み会のはずなのに、ごめんね」

「気にするなよ、お互い助け合うのが同期じゃない。な、ザキ」

「そうだよ。俺たち3人は、これからも力を合わせて目の前の壁をぶち壊していく同志なんだからさ」

「ありがとう、心強いな。先週、大学のゼミの仲間で飲み会をしたんだ。そうしたら、みんな2年目のはずなのに、すでにトップセールスの奴がいたり、製品開発を任されたりしている奴がいたりしてさ。なんだか、僕だけ取り残されているような肩身の狭い思いをしたんだ」

「2年目でトップセールスか、凄いなぁ」
石崎君が感心しています。

「ゼンちゃん、他人と比べない方がいいよ。人間の悩みは人と比べることで生まれると聞いたことがある。つまり、比べなければ悩むこともないってことだよ」

「ガンちゃんは、2年目でトップセールスの奴がいると聞いても焦らないの?」
石崎君が驚いています。

「うん、焦らない。だって、売っている物も違うし、人の能力だって、早く成果をあげる人もいれば、大器晩成型だっている。比べても無意味だよ」

「すごい割り切り方だな」

「とにかく、悩んでいる状態というのはマイナスの状態だろう。その悩みが晴れたところで、プラスマイナスゼロに戻るだけさ。それより、俺たちは医療の世界で世の中の役に立つって決めたわけだから、迷うことなく、今の仕事に真剣に取り組もうよ」

「そうだよ、ゼンちゃん。俺たちも少ないながらも担当施設を持たせてもらったんだ。まずは、担当しているご施設のお客様に喜んでもらおうよ」

「二人とも前向きだなぁ。よし、負けてられないな。僕も頑張るよ!」

「ゼンちゃん、『負けてられない って、結局また俺たちと比較しちゃってるよ!!」


ひとりごと 

森信三先生の「一切の悩みや比較より生じる」という言葉を初めて目にしたとき、小生は衝撃を受けました。

確かに、人間の悩みは人から離れては存在しないものです。

すぐに人と比べて悩む習慣を打破して、人と比べず自分自身の誠を尽くす習慣を身に着けましょう!!


原文】
人の世に処する、多少の応酬、塵労、閙擾(とうじょう)有り。膠膠擾(こうこうじょうじょう)として起滅すること端(たん)無し。因って復た此の計較(けいこう)、揣摩(しま)、歆羨(きんせん)、慳吝(けんりん)、無量の客感妄想を生ず。都(すべ)て是れ習気之を為すなり。之を魑魅、百怪の昏夜(こんや)に横行するもの、太陽の一たび出づるに及べば、則ち遁逃(とんとう)して迹を潜むるに譬う。心の霊光は、太陽と明(ひかり)を並ぶ。能く其の霊光に達すれば、即ち習気消滅して之が嬰累(えいるい)を為すこと能わず。聖人之を一掃して曰く、何をか思い何をか慮らんと。而して其の思は邪(よこしま)無きに帰す。邪無きは即ち霊光の本体なり。〔『言志後録』第9章〕

【意訳】
人がこの世で生きていくためには、多少の交際もあれば、煩悩に悩まされることもあり、また騒ぎに巻き込まれることもあろう。様々に動き乱れ、起こったり消滅したりして限りがない。よって比較してみたり、推量したり、うらやんだり、貪ったりけちったりして、限りなく妄想を生じさせる。これらはすべて世間の慣習によって起こるものである。例えてみれば、妖怪が闇夜の中で好き勝手に振舞っていても、太陽が昇れば逃げ隠れて跡形もなくなってしまうのと同じである。心の霊妙な光は太陽の明るさと同等である。心がその霊妙な光に達したならば、世間の慣習によって引き起こされる妄想も消え去って悪さを起こすことができない。聖人はこれらを一掃して言う。何を思うか、何を慮ろうかと。結局それは、わが思いに邪(よこしま)なところがなくなる、ということである。邪な心がないということこそ、心の霊妙な光の本体なのだ

【ビジネス的解釈】
人間の迷いはすべて他人との比較から生じる。その悩みを振り払うものは、自分の中にある誠しかない。誠を尽くしてひたむきに仕事に取り組むのみだ。


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