「『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ』は知ってたけど、あの言葉には続きがあったんですね?」

今日の神坂課長は、佐藤部長とリーダーシップの講演会に参加した帰り道のようです。

「意外と知られていないよね。
 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず
本来はこの3つがセットなんだけど、最初の一文があまりにも有名になり過ぎているね」

「はい。今日の講演を聴いて、初めて知りました」

「この3つの文章の最後の部分だけを抽出すると、『ほめる、任せる、信頼する』となるよね。これが教育の三大精神といっても良いんじゃないかな」

「なるほど、私はどれも苦手だなぁ。特にほめるのが下手なんですよね」

「わざとらしい褒め言葉は伝わらないからね。メンバーがいなければ営業1課は成り立たないんだ。そこを考えてみれば、感謝の気持ちが湧いてきて、自然に褒められるようになるよ」

「ああ、結局、私自身が素直になれていないんですね?」

「神坂君は十分素直だとは思うよ。そういえば、一斎先生は、教育のやり方には5つあると言っているね。
 その1 通常時は、個性を活かし、そばに寄り添って誘(いざな)う。
 その2 緊急時は、厳しく戒め諭す。
 その3 率先垂範を心がける。
 その4 言葉ではなく、心で教化する。
 その5 臨機応変に対応する。

「部長、もう一回言ってもらえますか? レコーダーに録音します」

「勘弁してよ。今のは私の意訳だから、詳しくは『言志後録』の第12章を読んでみて」

「そういわずに、もう1回だけお願いします。それにしても、講演会も良かったけど、部長の話のほうがより勉強になりました。そうだ、定期的に私たちに講義をしてくださいよ」

「ははは。私はそんな器じゃないよ。何か迷ったり、悩んだりしたら、遠慮なく相談に来てくれればいいからね!」


ひとりごと 

山本五十六連合艦隊司令長官の名言として知られているのが、

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ

です。

しかし、これには本編に書いたように続きがあります。

ほめる  → 人が動く。
任せる  → 人が育つ。
信頼する → 人が実る。

とても大切な教えですね。


原文】
誘掖(ゆうえき)して之を導くは、教(おしえ)の常なり。警戒して之を喩は、教の時なり。躬行して以て之を率いるは、教の本なり。言わずして之を化するは、教の神なり。抑えて之を揚げ、激して之を進むるは、教の権にして変なり。教も亦術多し。〔『言志後録』第12章〕

【訳文】
子弟のそばにいて助け導くことは教育の一般的なやり方(常道)である。子弟が邪道に陥ろうとするのを、戒め諭すことは教育の時宜を得たやり方である。自分がまず実践して子弟を指導することは教育の根本的なやり方である。口先に出して言わず、己が徳を以て教化することは教育の最上の窮極的なやり方である。一度抑えつけて、そしてほめ、激励して道に進ませることは、教育の一時的にして臨機応変なやり方である。教育にもまた、このように幾多の方法があるのである。

【所感】
力を貸し導いてあげることは、教育の常道である。戒めて諭していくのは、教育の時宜を得た方法である。実践して自ら背中を見せることは、教育の根本である。言葉に出さずに感化することは、教育の神技である。抑えたのち褒め上げ、激励して進めることは、教育の臨機応変さを意味する。このように教育もまた様々な手法があるものだ、と一斎先生は言います。


yamamoto5611