今日の神坂課長は、佐藤部長に呼ばれたようです。

「神坂君、ちょっと気になることがあってね」

「なんでしょうか?」

「神坂君は、石崎君にも善久君にも分け隔てなく接しているよね。それは良いことなんだろうけど、すこし善久君に対しては配慮した方がいいかなと思ってね」

「はぁ、どういうことですか?」

「彼らは若いから、考え方に未熟な点があるのは当然だよね。ところが、彼らがちょっと間違った意見や未熟な意見を言うと、神坂君が結構頭ごなしに否定しているように感じるんだ」

「・・・」

「彼らが普段から怠慢だったり、不満分子だというなら仕方がないけど、そうではないよね?」

「ええ、奴らは一所懸命に頑張っていると思います」

「そうだよね。石崎君は負けん気が強いから否定しても這い上がってくるタイプだけど、善久君はシュンとしてしまうでしょう?」

「そうですね、あいつはちょっとネガティブなところがありますから」

「一斎先生は、部下が少しくらい間違った意見を言ったとしても、『一旦受け容れろ』と言っているんだ」

「受け容れる、ですか・・・」

「そう。それは肯定しろという意味ではないよ。ただ、聞き流す感じだね」

「なるほど。肯定しろと言われるとそれは私にとってストレスになりますが、ただ聞き流すならなんとかなりそうですね」

「教育のポイントは、『誘(いざな)う』ことだと一斎先生は言っている。いま流行のアドラー的な言い方だと、『勇気付け』にあたるかな」

「誘う、か。なかなか難しいですね」

「そりゃ、難しいよ! 私がとある人物に対して、それを実践してきて、どれだけ苦労したことか!」

「あ! なるほど、そういえばそのとある人物は、人から頭ごなしに否定されると露骨にやる気を失うタイプの人間でしたね!」

「彼には本当に苦労させられたよ。そんな彼でさえ、いまでは立派なマネジャーになったんだよ。お陰で私の髪の毛は真っ白になったよ」

「ぶ、部長! それはそのとある人物のせいではなくて、年齢のせいですよ!!」


ひとりごと 

リーダーが常に心しておくべき大切な章句です。

かつての自分も未熟だったことを忘れて、若者を頭ごなしに否定しまった経験はありませんか?

小生は、恥ずかしくなるほどたくさんの経験があります。

まず、受け容れて、少しずつ諭す。

ここがポイントです。


原文】
小吏有り。苟(いやしく)も能く志を職掌に尽くさば、長官たる者、宜しく勧奨して之を誘掖すべし。時に不当の見有りと雖も、而も亦宜しく姑(しばら)く之を容れて、徐徐に諭説すべし。決して之を抑遏(よくあつ)す可からず。抑遏せば則ち意阻み気撓(たゆ)みて、後来遂に其の心を尽くさず。〔『言志後録』第13章〕

【意訳】
下級役人が仮にも志をもって職務に励んでいるならば、上役の者はこれを励ましながら、力を貸して導いてあげるべきである。ときには正しくない見解もあろうが、それでもしばらくはそのまま容認しつつ、徐々に教え諭していくべきである。決して上から抑えつけるようなことはしてはいけない。抑圧すればやる気を失い、心にもゆるみが出て、職務に精進することを怠るようになるであろう

【ビジネス的解釈】
メンバーが自分の精一杯を尽くして仕事に取り組んでいるなら、少しぐらい間違った見方をしていても、頭ごなしに否定したり矯正すべきではない。いきなり否定すれば、やる気を失い、仕事を怠る結果を招くことになるであろう。まずは、勇気づけ、良い方向へと誘うことを意識すべきである。


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