今日は営業2課の石崎君に新人の梅田君が同行しているようです。

「石崎さん、先ほどの商談のことですが、なぜ院長先生がルキアが欲しいと言ったのに、エクサを勧めたんですか? ルキアの方が高く売れるのに勿体無くないですか?」

「梅ちゃん、そう思った? いや、俺も一瞬はそのままルキアで提案しようかなと思ったよ。でも、院長はエクサの存在を知らなかったんだ。エクサという下位機種があるのに、それを伝えずに商売するのは営業の道に反すると思わないか?」

「でも、はっきりルキアが欲しいと言っていたわけですから、エクサのことは言わなくても良かったのでは?」

「院長がルキアが欲しいといった理由は、NBI(特殊な光で癌組織を見つけ易くする機能)を使いたいからだと言っていたよね。新製品のエクサにはNBI機能がついているんだ。それを説明せずに、もし購入後にエクサの存在を知ったら、院長先生はどう思うだろう?」

「ああ、騙されたと思うかも知れませんね」

「うん、『なぜ教えてくれなかった』と叱られるだろうね。そして、最悪の場合、次はウチからは買わないと言われてしまうかも知れない」

「それはヤバイですね」

「たった一回の商売で欲をかいたせいで、その後のお取引をすべて棒に振ってしまう可能性が高いだろう?」

「なるほど、長いお付き合いを考えなければいけないのですね?」

「そう、当社とご施設のお取引はずっと続くわけだからさ」

「すごいなぁ、石崎さんは!」

「ははは。カッコいいと思ってくれた?」

「めっちゃカッコいいっすよ!」

「実はさ、ちょうど去年の今頃、同じような商談があってね。そのときはルキアを売ろうとしてしまったんだ。そしたら、カミサマにめちゃくちゃ怒られて、一緒にご施設に謝罪に行かされて、最終的にエクサを買ってもらったことがあったんだ」

「ああ、そうだったんですか」

「そのときに、今のような話をされてさ。最初はムカついてたけど、時間が経つにつれて腹に落ちてきてね」

「課長は言い方がキツイですからね!」

「そうなんだよ! 優しく言ってくれれば聞きやすいのにな。で、そのとき最後にこう言われたんだ。『石崎、売れる営業人になりたかったら、正しい商売をやり続けろよ。そうすれば利益は後から必ずついてくるから』って」

「カッコいい言葉ですね。メモしておきます」

「そうなんだよ。カッコいいんだよ、カミサマって意外とね」


ひとりごと 

『孟子』にある有名な言葉に「先義後利」があります。

また、『荀子』にも「先義而後利者栄(義を先にして利を後にする者は栄える)」とあります。

大丸百貨店の創業者下村彦右衛門は、この荀子の言葉「先義而後利者栄」を店是としました。(一般には大丸の家訓として「先義後利」が有名ですが、実際にはこれが本当の店是です)

商売をしているとどうしても目先の利益に目がくらみそうになることがあります。

そのとき、一度立ち止まって、

お客様のメリット(義) > 自社の利益(利) 

となっているかを確認する必要があります。


原文】
君子も亦利害を説く。利害は義理に本づく。小人も亦義理を説く。義理は利害に由る。〔『言志後録』第23章〕

【意訳】
立派な人も利害を説く。ただしその利害は義(正しい道)に基づいている。小人も義について語るが、その義よりも己の利が優先される

【ビジネス的解釈】
一流の営業人も義に基づいた利(正しい商売をした結果としての利益)については語る。しかし売れない営業マンは自分の利益のために義を語る。


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