S急便の中井さんが、年末最後の荷物を届けにやってきました。
「毎度! あ、佐藤さん。今年も一年間お世話になりました!」
「ああ、中井君。こちらこそお世話になりました。来年もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします。あ、そうだ。ちょっと相談したいことがあるんですけど、時間ありますか?」
「いいよ」
二人は喫茶コーナーに移動したようです。
「実は、来年のチームのスローガンを作りたいんですけど、俺は学がないんで、ちょっとアドバイスが欲しいんです」
「私でよければ、喜んで」
「ありがとうございます。毎朝、確認をして、自分たちを律するようなシンプルなやつが良いんですよね。何か良い言葉はありませんか?」
「どういうことをメンバーに伝えたいの?」
「そうですね、お客様に対しても、仲間に対しても通用するようなことですかね。たとえば、『素直になろう』みたいな感じですかね」
「なるほどね。じゃあ、一斎先生の言葉を借りようか。一斎先生は、大地の徳は『敬・順・簡・厚』の四つだと言っている。ずっと大地から離れることなく生きていく以上、我々人間はこの四つの徳を守るべきだ、と言うんだ」
「大地の徳ですか? その四つってどういう意味なんですか?」
「敬というのは、つつしみ深くすること。順というのは、従順であること、つまり素直であることだね。簡というのは、おおらかであること。厚というのは、温厚であること」
中井さんはメモをしているようです。
「良いですね。じゃあ、こんな感じで朝みんなで唱和しようかな。『私たちは、大地の徳である 敬・順・簡・厚 を常に心掛け、チーム一丸となってお客様の課題解決に励みます』。どうでしょうか?」
「素晴らしいじゃない。ウチも何か考えようかな?」
「マジですか? 佐藤さんに褒められると俺は何より嬉しいんですよ。じゃあ、これでいきます!」
「きっと、凄い一年になるね!」
「ありがとうございます。じゃあ、佐藤さん。良いお年をお迎えください」
「うん。中井君も良いお年を!」
ひとりごと
この物語の中では、中井さんに語ってもらいましたが、この四項目はどれも小生にとっては必要不可欠な徳目のようです。
来年の手帳に記載して、毎朝確認し、一日を始めます。
【原文】
人は地に生まれて地に死す。畢竟地を離るる能わず。故に人は宜しく地の徳を執るべし。地の徳は敬なり。人宜しく敬すべし。地の徳は順なり。人宜しく順なるべし。地の徳は簡なり。人宜しく簡なるべし。地の徳は厚なり。人宜しく厚なるべし。〔『言志後録』第37章〕
【意訳】
人は地上で生まれ地上で死ぬ。最後まで地上を離れることはない。よって人間は地の四つの徳を身につけるべきである。四つの徳とは敬・順・簡・厚である。つまり人間は、よく慎み、よく従順であり、よくおおらかであり、よく温厚であるべきである。
【ビジネス的解釈】
大地の徳は敬・順・簡・厚の四つである。人間は死ぬまで大地を離れることはできないのであるから、この四つの徳を守っていくことが、宇宙の摂理に則った生き方だといえる。