善久君の担当施設での商談について、石崎君が相談に乗っているようです。

「でもさ、ゼンちゃん。その金額はちょっと下げ過ぎじゃないの?」

「まあ、ザキの言うこともわかるけど、もし価格で下回れなければ、結局売り上げはゼロになってしまうからさぁ」

「事務長さんは、相手の見積額は教えてくれないの?」

「うん、あの人は駆け引き上手だからね。絶対に教えてくれないよ」

「そうか。ゼンちゃんは、その金額で勝てるとみてるの?」

「昨日の提示額で、まだかなりY社の方が安いと言われたから自信はないけど、吹っ掛けられている気もするし・・・」

そこに神坂課長がやって来ました。

「お、若手の作戦会議か? どこの商談だ?」

「Ⅰ中央病院の商談です。Y社とバチバチの競合中で、この前の出し値ではまだウチがかなり高いと言われました」

「ああ、あそこの香川事務長は相当なタヌキ親爺だからな。若い善久が相手なら相当吹っ掛けてきていると思うぞ」

「やっぱりそうですよね。な、ゼンちゃん。やはり下げ過ぎじゃない?」

「そうかなぁ」

「商売というのはシンプルに考えた方がいい。お客さんの心を読むときもあまり考え過ぎないことだ」

「そうは言いますが、負けてしまったら営業2課に迷惑をかけることになりますから・・・」

「善久、価格なんてものはな、最後に決まるものだ。これまでお前があの施設にどんな対応をしてきたか、それが価格という形で評価されるんだよ。お前は、あの施設にはあまりお役に立ててないと思うのか?」

「いえ、緊急対応なんかもかなりフレキシブルにやってきましたし、内科の高橋部長先生からは信頼されていると思います」

「それなら、お前がこの価格で負けるなら仕方がないという金額で提示しろ。相手の出し値に引っ張られるな。これまでやってきたことに自信を持て!」

「でも、もし負けたら、他に商談が・・・」

「それがお前の本音だろう。だからこそ、日頃からたくさんの商談案件を持っておくことが大事なんだよ。単純に自分の活動の対価を請求できないのは、自分の案件が少ないことに気づいているからだよな?」

「・・・」

「とにかくお前がこの価格以下にはしたくないという金額で俺のところに持ってこい。そうしたら黙ってハンコを押してやるから」

「わかりました。ありがとうございます」

「なるほど。何ごともシンプルに考えるべきなのか。でも、そのためには日頃から手を抜かずに仕事をしておかないといけないんだな」
石崎君はひとりでそんなことを考えていたようです。


ひとりごと
 
考え過ぎはよくない、シンプルに考えよ、と一斎先生は言います。

しかし、そう言い切れるのは、常に一斎先生が試行錯誤を繰り返しているからでしょう。

この章句を早合点して、深く考える必要はないという取り方をすれば、それこそ大きな失敗を招くことになるはずです。


原文】
人情・事変・或いは深看を做して之を処すれば、卻(かえ)って失当の者有り。大抵軽看して区処すれば、肯綮(こうけい)に中(あた)る者少なからず。〔『言志後録』第61章〕

【意訳】
人の心情や出来事については、あまり深く考え過ぎるとかえってうまくいかないものである。むしろ軽く捉えて対処した方が、物事の要所をつかめることがあるものだ

【ビジネス的解釈】
他人の心情や出来事に対して、あまり深読みをすべきではない。シンプルに考え、即行動することが重要である。


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