営業部特販課の大累課長と雑賀さんが揉めているようです。

「お前はいつも詰めが甘いんだよ! クロージングの意識が低いから競合に勝てないんだ!」

「俺だって俺なりには意識していますよ。でもY社はチームで営業しているのに、こっちは俺ひとりですよ。限界がありますよ!」

「言い訳するな! ちゃんと自分に矢印を向けて反省しろよ。そうしない限り、ずっと負け続けるぞ!」

「どうせ俺はお荷物ですよ!」

「そんなこと言ってないだろう!!」

雑賀さんは怒って居室を飛び出していきました。

「大累君、ちょっといいかな?」
佐藤部長が大累課長を部長室に呼んだようです。

ふたりは応接セットに向き合って座りました。

「大累君は、雑賀君が自腹で営業セミナーを受講していることは知ってるかい?」

「えっ?」

「実は私の友人が講師をしている営業研修に、雑賀君が参加しているらしいんだ。社名をみて、こっそり私に教えてくれたんだけどね」

「知りませんでした・・・」

「彼は、神坂君や清水君にもよく質問しているらしいよ。この前は、清水君と同行したみたいだしね」

「ああ、清水から雑賀を連れ出してもいいかと聞かれたので、お願いしました」

「あれは、雑賀君から頼んだようだよ」

「あいつ、なんで私に相談してくれないんですかね?」

「彼はよくこう言ってるよ。『自分がしっかり結果を出して、大累課長を男にしたい』ってね」

「・・・」

「一斎先生がこう言ってるんだ。『暗いところに居ると明るいものがよく見えるが、明るいところに居ると暗い場所は見えない』ってね。上位者というのは、自分が思っているほどメンバーのことを理解できていないのかもね?」

「そうだったんですね。たしかに、私も神坂さんに相談するのはちょっと恥ずかしいんですよ。そういうことなのかなぁ?」

「雑賀君もそうやって陰で頑張っているようだから、きっとそのうちに結果を出すよ」

「そうですね。私はいつでもメンバーとフラットなつもりで居たのですが、いつの間にか上から目線になっていたのかも知れません」

「明るい場所にいても、暗い場所を観ることができるリーダーになって欲しいね」

「はい、意識します。今晩、雑賀を飯に誘ってみます!」


ひとりごと
 
リーダーになると、気づかないうちにメンバーを下に見てしまうのかも知れません?

上から目線でなく、横からの目線で接するとよい、とアドラーは言います。

常にメンバーの置かれた環境を把握することに努めることは、リーダーの最も重要な仕事ではないでしょうか?


原文】
晦(かい)に処(お)る者は能く顕を見、顕に拠(よ)る者は晦を見ず。〔『言志後録』第64章〕

【意訳】
暗い所にいる人は明るい所がよく見えるが、明るい所にいる人は暗い所を見ることがない

【ビジネス的解釈】
下位職者は上位職者のことがよく見えるが、上位職者は意識しない限り、下位職者のことを理解できにくいものである。


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