「善久、ちょっといいか?」

「神坂課長、何ですか?」

神坂課長が善久君を喫茶コーナーに連れ出したようです。

「善久、俺はお前にすごく期待しているんだ」

「え、私にですか?」

「そうだよ。お前には石崎にはない課題発見力がある。どれだけ課題を解決する力があっても、課題を発見できなければ意味がないからな」

「私にそんな力があるのですか?」

「ああ、あるよ。俺が若い頃と比べたら、お前の方がはるかに課題を見極める力が高い」

「自分では気づいていませんでした・・・」

「お前と石崎とは本当にあらゆる面で好対照だよな。二人を足して二で割ったら凄い営業マンになるんだけどなぁ」

「ザキの方が優秀ですよ。課長も絶対、ザキを評価していると思っていました」

「まだ二年目のお前たちに大きな差なんてあるわけないだろう。石崎は確かに行動力はあるが、肝心の課題を見極める力が弱いから、打ち手を間違えることが多い。一方お前は、せっかく課題をつかんでいるのに、そこからの行動が慎重すぎる。だから、タイミングを逃してしまうことが多い」

「はい。そこは自分でも課題だと思っています」

「もっと自分の力に自信を持て、善久。お前は、願海に影響されて本もよく読んでいるんだろう。せっかく本を読んでいるんだから、一冊本を読んだら、ひとつでいいからその内容を実行に移してみろ」

「ひとつで良いのですか?」

「たかが1,500円程度の投資で大きな見返りを求めるな。ひとつ気づきがあれば十分じゃないか!」

「たしかに、そうですね」
善久君の表情が少し明るくなったようです。

「でも、課長。なぜ、急にそんな話をされるんですか?」

「お前、会社を辞めようかと考えているんじゃないか?」

「えっ!」

「ほら、図星だろう。表情を見ていればわかるさ。それに日報の内容も以前より薄くなってきたしな」

「正直に言いますと、営業は向いていないのかなと思い始めていました」

「営業マンに向かない人間なんていないんだよ。そう思うのは、お前が理想とする営業マンとお前の性格がマッチしていないからじゃないか?」

「・・・」

「自分の得意とする能力と性格をよく見極めて、自分に近い理想の営業マンを見つけ出すといいよ。ほら、この本を読んでごらん」

「『心の営業』?」

「それを読むと、お前が営業に向いていることがよくわかるさ!」


ひとりごと
 
医師が患者の症状に応じて与える薬を変えるように、部下の課題に応じてアドバイスを変えることを応病与薬といいます。

孔子は、この応病与薬の名人です。

ところで最近の20代の若い人たちには、ただ短所だけを指摘するのは逆効果のようです。

まず長所を指摘して褒め、次に短所について一緒に考える。

これが新しい処方箋のようです。


原文】
学者にして読書を嗜まざる者有れば、之を督して精を励まし書を読ましめ、大いに読書に耽る者有れば、之をして静坐自省せしむ。是れ則ち症に対して之を補瀉(ほしゃ)するのみ。〔『言志後録』第83章〕

【意訳】
学問をする人で読書を嗜まない人がいれば、促し励まして読書をさせ、大いに読書をする人がいれば、静坐して自らを省みるように勧める。これは症状に応じて薬を与えるようなものである

【ビジネス的解釈】
リーダーは常に、メンバーの長所を伸ばしつつ、短所を矯めるアドバイスをすべきである。


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