今日の神坂課長は、休日によく利用する喫茶店の個室にいるようです。
「佐藤部長が入院して、営業部全体のことを考えなければいけなくなってみると、自分の考えがいかに浅かったかがよくわかるよなぁ」
コーヒーを飲みながら、テーブルの上に自宅から持ってきた『言志四録』と『論語』を広げているようです。
「敬は車で、謙はその車を操るハンドルだ、というこの表現は面白いな」
「車を組織に置き換えて考えてみてもいいのかもな。営業部という一台の大きなバスを俺が運転することを想像してみよう」
「一斎先生の言葉によると、このバスのガソリンが敬なわけだな。つまり、みんながお互いに相手を敬う気持ちをもつことだ」
神坂課長は、営業部のメンバーの顔を心のスクリーンに浮かべています。
「ははは、清水に雑賀や石崎が俺を尊敬してくれているとは思えないな」
苦笑いを浮かべながら、2杯目のコーヒーを注文したようです。
「いや、待てよ。だいたい俺があいつらを尊敬できているのか? そこがまずは問題ということか!」
神坂課長は、何かを思い出したように『経書大綱 論語』(小林一郎著)のページをめくっています。
「ほら、ここに書いてあった。まずは自分の能力を過信しないことだな。経験が長い分、若い連中より仕事ができるのは当然なんだからな」
2杯目のコーヒーが運ばれてきました。
「さて、ハンドルは謙とあるな。つねに謙虚に譲る心をもって接しなさい、ということだろうな。これが俺に一番足りないものだからな」
「ということは、俺は今までハンドルのない車を運転していたというわけか? そりゃ、うまくいくわけないよな」
神坂課長は、コーヒーを一気に飲み干して、立ち上がりました。
「よし、佐藤部長のお見舞いに行くとするか!」
ひとりごと
敬と謙の2つの徳を身につければ、国を治めることも難しくない、と一斎先生は言います。
会社組織も同じでしょう。
しかし、敬と謙にあふれた組織を見かけることは稀ですよね?
その原因はどこにあるのか?
その答えは、家庭でしょう。
まずは、家庭において、親が子に子が親に、敬と謙を発揮することから始めるべきなのでしょう。
【原文】
謙は徳の柄(へい)なり。敬は徳の與(よ)なり。以て師を行(や)り邑(ゆう)国を征す可し。〔『言志後録』第89章〕
【意訳】
慎ましさという乗り物に乗り、謙譲というハンドルを握って軍隊(師)を進めれば、村や国を治めることは容易である
【ビジネス的解釈】