神坂課長は、佐藤部長のお見舞いにきているようです。(昨日の続き)

「それにしても、良い言葉を心に刻んでおくというのはとても良いことですよね」

「すぐに活用しなくても、心に刻んでおくと、必要な場面でふっと頭に浮かんでくることがあるよね」

「はい。ただ、私の場合はまだ引き出しの中身がスカスカですから、あまりそういう経験はないですけどね」

「最近は猛勉強をしているから、神坂君も近いうちにそういうことを経験するよ」

「部長のお陰で、この歳になって、やって勉強の楽しさがわかってきました」

「まだまだ遅くないよ。『壮にして学べば老いて衰えず』だからね!」

「そうでした!」

「一斎先生は、良い言葉というのは、鍼灸治療のようなものだ、と言ってるね」

「どういうことですか?」

「一斎先生はすこし体調が悪くなると、鍼治療をしたようだね。それと同じで心に邪念が芽生えたと思ったら、箴言つまり戒めの言葉を思い起こすと言っている」

「なるほど」

「そうするとまるで進行する前に病気が退散するかのように、心の邪念を追い払うことができるということだよね」

「そうかぁ、そのためにもたくさんの名言・箴言を心に刻んでおくと良いですね」

「そうだね。かつての日本は、子供のときに『論語』の素読をした。その際、あまり意味は説明しなかったようだね。ただ、何度も何度も暗唱させて、心に刻み込む作業をしたんだろうね」

「そうか、そのときに意味はわからなくても、心の奥に刻まれているから、必要なときにサッと取り出せるんですね」

「うん。最近の教育は、なんでも意味を伝えようとする。しかし、答えを与えるのではなく、自分で考えさせることが真の教育だと思うんだ」

「おっしゃるとおりですね。あ、すみません。お見舞いにきたはずが、また勉強させてもらっちゃいました」

「ははは。こっちも楽しいから、ウェルカムだよ」

「部長は、お独りだし、暇つぶしになれば嬉しいですよ」

「ガチャ」
病室の扉が開いて、ちさとママがたくさんの買い物袋をぶら下げて入ってきました。

「あら、神坂君。お見舞いに来てくれたの?」

「あ、お独り様じゃなかったようで・・・。それじゃ、そろそろ失礼します」

 
ひとりごと

良い言葉というのは、たしかに心の病気の予防薬になるような気がします。

知っていると知らないとでは、心に迷いが生じたときの行動が変わってきます。

即効性はないかも知れませんが、これが人間学を学ぶ上で大事な効能なのかも知れません。

 
【原文】
箴(しん)は鍼(しん)なり、心の鍼なり。非幾纔(わず)かに動けば、即便(すなわ)ち之を箴すれば可なり。増長するに至りては、則ち効を得ること或いは少なし。余刺鍼(ししん)を好む。気体稍(やや)清快ならざるに値(あ)えば、輒(すなわ)ち早く心下を刺すこと十数鍼なれば、則ち病未だ成らずして潰す。因って此の理を悟る。〔『言志後録』第91章〕

【意訳】
戒め(箴言)は心に対する鍼のようなものである。心に不善の兆しがわずかに芽生えたならば、すぐに鍼を据えれば良い。不善の念が増長してしまえば、その効力は限定的となろう。私は鍼治療を好む。気持ちや体にやや不快感を覚えたならば、すぐにみぞおち辺りに鍼を十数本刺すことで、病気になることを未然に防いでいる。そこからこの理を得たのだ

【ビジネス的解釈】
箴言というのは、心の病の予防薬のようなものである。常に整理して心にしまっておけば、ビジネスを円滑に進めることに役に立つ


biwa_onkyu