今日の神坂課長は、仕事帰りに大型書店に寄ったようです。
「あれ、神坂課長じゃないですか?」
「おお、廣田か。お前もインプットの準備か?」
「はい、私は毎週金曜日の提示後に書店に来るのがルーチンなんです」
「マジで? お前くらいの年齢だったら、フライデーナイトはデートで相場は決まってるだろう」
「残念ながら彼女がいないので・・・」
「あ、これセクハラか? すまん、悪気はないぞ。そうだ、どうせ暇なら、本の物色が済んだら付き合えよ」
「はい、うれしいです」
二人は30分ほど、それぞれの本を選び、その後「季節の料理 ちさと」へやってきたようです。
「ああ、ここが有名な『ちさと』さんですか!」
「あら、始めましてかな。神坂君の後輩?」
「ああ、ママ。こいつは廣田。新美の下にいる有望な中堅社員さんだよ」
「始めまして。以前からうわさは聞いています。すごくきれいなママがいるお店だって」
「あら、それじゃあ、現物をみてがっかりね」
「いえ、想像以上の美人でした」
「神坂君、たしかにこの子は優秀ね」
その後、ふたりはカウンターに座って、乾杯を済ませたようです。
「お前の年齢のうちから、読書をするのはいいことだよな。俺もお前の年齢に戻って、そこから読書をたくさん
したいよ」
「とにかく、今のままでは駄目だと思っていますので。優秀な後輩もたくさん居ますしね。でも、さっき神坂課
長が『有望な中堅社員』だといってくれて凄くうれしかったです」
「俺はお世辞は言えないからな。本気でそう思っているぞ」
「ご期待に応えたいです」
「焦るな廣田。今のように現状に満足せずに、学び続けていれば必ず芽が出る。ただし、インプットだけじゃ駄目だぞ。アウトプットつまり実践しないとな」
「はい」
「そして、自分を見限るなよ。お前は間違いなく良い営業人になれるからな」
「ありがとうございます」
「だから、他人と比べるな。他人と比べるくらいなら、理想の自分をみつけて、それと比較しろ。そして足りないと思ったことを、読書でインプットして、実践し続けるんだよ。俺はうまくいかない人というのは、みんな自分で自分に限界を設けているだけだと思っている」
「さすがは神坂課長です。私はどうしても自分に自信が持てないんです」
「自信なんて持てなくてもいいじゃないか。理想の自分との差を明確にして、現状に満足しないで自分を磨けばいいんだよ。俺は若い頃、自信を超えて過信していたからな。それで相当出遅れたよ」
「課長の行動力は凄いなぁといつも思っています」
「ははは。インプットもないのにアウトプットするという得意技を持っていたからな。でも、さすがに40歳を超えるとそういう小手先のものは通用しなくなるんだ。だから読書が大事なんだよ!」
「はい。とても勉強になりました。本屋に来てよかったです」
「もうひとつ朗報を伝えよう。今日は俺の奢りだ!」
「カッコ良過ぎます!!」
ひとりごと
スマイルズの著した不朽の名著『自助論』のなかの有名な一節に、「天は自ら助くるものを助く」とあります。
自分を高く買いかぶり過ぎるのは問題ですが、低く見限るのはもっと問題だということでしょう。
理想の自分と現状を比較して、少しでも理想に近づけるように、死ぬまで研鑽を続けていきたいものです。
【原文】
君子は自ら慊(けん)し、小人は則ち自ら欺く。君子は自ら彊(つと)め、小人は則ち自ら棄つ。上達と下達は、一つの自の字に落在す。〔『言志後録』第96章〕
【意訳】
立派な人は自ら満足をすることはないが、凡人は自らを欺いて小さなことに満足する。また立派な人は常に向上すべく休まずに勉めているが、凡人は自ら諦めてしまう。物事の真理に近づけるか、小手先のテクニックをマスターして終わるかは、すべて「自」という文字のごとく己に懸かっているのだ。
【ビジネス的解釈】
自分の現状に満足せず、自分を研鑽し続ければ、良い仕事をすることができる。しかし、現状に甘んじて、自分に期待することを諦めてしまえば、大きな仕事はできない。社会に大きな貢献をするビジネスマンになるか否かは、すべて自分自身に懸かっている。