神坂課長は入社一年目の梅田君をランチに誘ったようです。

「梅田、来月になったらもう新人ではなくなるんだな」

「はい。あっという間に一年が経ちました」

「4月からは担当を持ってもらうからな。準備はできているか?」

「はい、『やるぞ』という気持ちと、『大丈夫かな』という不安がごちゃ混ぜです」

「正直でいいな。不安というのは、実態がないんだ。不安の中身を小さく分解してみるといいぞ」

「小さく分解ですか・・・?」

「たとえば、製品知識が不足しているという不安があるとするだろう」

「あ、まさにそれが不安のひとつです!」

「そうだよな。でもそのままだと不安はどんどん大きくなるぞ。製品知識という大きな捉え方ではなく、具体的にどんな製品の知識が不足しているかを明確にするんだ」

「なるほど。私の場合は、内視鏡の治療機器に関する知識が不足していると思っています」

「高周波装置とか超音波メスだな?」

「はい」

「梅田、まだ3週間もあるぞ。その間に勉強をすればいいじゃないか。いまのように、不安の中身を小さく分解して、それをひとつずつ潰していけば、不安は小さくなるんだ

「そうですね。不安だといいながら、日々先輩に言われたことだけをやっていました。反省します」

「その正直さは、お前の魅力だな」

「神坂課長、ご施設の担当をもつ営業マンとして何を心掛けたら良いでしょうか?」

「そうだな、いろいろあるけど、手を抜かないことと、人様に見られて恥ずかしくない行動を心掛ければいいんじゃないか」

「手抜きはわかりますが、人様に見られて恥ずかしくないこととはどんなことですか?」

「例えば身だしなみもそうだし、挨拶をしっかりすることもそうだろうな。嘘をつくなんていうのは最悪だ」

「そんなことを意識するだけで大丈夫なのでしょうか?」

「手抜きをしないこと、人様に恥ずかしくない行動をすること。この2つは、社会人として生きていく上においては、お前が考えているほど簡単じゃないぞ」

「課長も苦労されてきたのですか?」

「もちろんだよ。手を抜きたくなることなんてしょっちゅうあるぞ。思わず嘘をついてしまうこともある」

「少し安心しました」

「実は、さっきもひとつ嘘をついてしまったんだ」

「え?」

「お前が食べたいものを奢ってやると言っただろう。そしたらお前がこの店が良いと言ったよな」

「はい。課長も『おお、いいな』って言ってくれましたよね?」

「実は俺、あんかけスパゲティは大の苦手なんだ!」


ひとりごと

一糸不苟(いっしふこう)という言葉があります。

たとえ一本の糸たりともおろそかにしないということから、なにごとにも手を抜かないことを意味する言葉だそうです。

手抜きは仕事を成就する上で身近にある最大の敵かも知れません。

覚えておきたい言葉ですね。


【原文】
不苟(ふこう)の字、以て過を寡くす可し。不愧(ふき)の字、以て咎(きゅう)に遠ざかる可し。〔『言志後録』第112章〕

【意訳】
物事を軽々しく行わないという「不苟」の字、これをいつも心に思って禍を少なくするべきである。また、物事に充分対処できていて恥じることがないという「不愧」の字、これをいつも心に抱いて、人から咎められることのないようにすべきである

【ビジネス的解釈】
手を抜かないこと、人様に恥ずかしくない仕事をすること。この2つを意識すれば、大きな禍に巻き込まれることはない。


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