今日の神坂課長は、同期の人事課鈴木課長と食事をしているようです。

「結局さ、マネジメントというものは、他人をどうコントロールするかじゃなくて、いかに自分の心を抑制するかだと思うんだよな」

「営業部の大所帯を預かってみて、考えが変わったか?」

「そうかもしれない。『修身・斉家・治国・平天下』って言葉があるだろう?」

「『大学』の言葉だな」

「そうそう。仮に治国を組織をマネジメントすることに置き換えてみるとさ。まずその前に、自分の身を修めるべきだということだろう。で、その次に家を整えることに注力し、それができてはじめて組織をマネジメントできるという理解になるよな」

「そうだな」

「つまりは、親や学校の先生や部活の監督もしくは友人との人間関係の中で自分の感情を抑制することを学び、次に他人である女性と家庭をもち、そこで夫婦間の役割を学び親業も始める。そこでもまた自分の感情をコントロールする必要性を学べるわけだ」

「なるほど」

「そこで充分に鍛錬を積んだ上で、組織の長となってマネジメントを行えば、それまでの学びが活かせるというわけだよ」

「そうだな。それで、お前はその学びを活かせているのか?」

「そこだよ! 俺はガキの頃も、家庭をもってからも自己中心的な考え方で生きてきたから、全然学びがないわけよ」

「すばらしい自己分析だ」

「なぁ、鈴木。部下の数だけ人生がある。リーダーというのは、部下のそれぞれの人生において、かなり重要な役割を占めているとは思わないか?」

「まったくその通りだと思うよ。だからこそ、リーダーの個人的な損得でメンバーを指導してはいけないんだ

「そうだよな。準備をしてこなかった俺は今、本当にそのことで苦労しているんだよ。『大学』には治国のポイントとして、孝・弟・慈の三つが重要だと書かれている」

孝・弟・慈か」

「親に対する孝、目上の人に対する弟、そして周囲の人への慈しみの気持ち、それが大事だという。ところが振り返ってみると、俺は親不孝なことばかりしてきたし、兄は優秀だったからいつもひがんでいたし、周りの人へも高圧的な態度をとってきた」

「そのツケがいまになって回って来たというわけか?」

「そうなんだよ。なにも準備せぬままステージの上に立っているような感じだよ。俺はどうすればいいんだ?」

「神坂、お前には誰からも好かれる人間力があることは忘れるな。たしかにお前には今自己分析したような傾向はあるよ。でもな、それでもお前の周りにはいつも人が集まってくる。心配するな。大事なことに気づいたんだ。これからすこしずつ実践すればいいじゃないか」

「鈴木、ありがとう。とにかく自分の心と格闘するしかないな」

「参ったな。熱い話をしたのはいいが、熱々のきしめんはすっかり冷めちまったぜ」


ひとりごと

自分の心を意のままに操れるようになれば、マネジメントはさほど難しくないのかも知れません。

しかし、つねに感情に左右されない己を創り上げることは至難の業です。

『大学』にある「修身・斉家・治国・平天下」という考え方は、まさに真言だと感じます。


【原文】
大学は、誠意に好悪を説く自(よ)り、平天下に絜矩(けっく)を説くに至る。中間も亦忿懥(ふんち)四件、親愛五件、孝弟慈三件、都(すべ)て情の上に於いて理会す。〔『言志後録』第114章〕

【意訳】
儒学の経典である『大学』という書物には、意を誠にすることや悪臭を悪(にく)み好色を好むことから始めて、天下を平らかにするには国を治めるべきことや自分の心を尺度として人の心を知ることまでが説かれている。その間には、身を修めるために正すべき忿怒・恐懼・好楽・憂患の四件があること、家を斉(ととの)えるためには、親愛・賤悪・畏敬・哀矜・敖惰の五件によって心が偏ることのないようすること、また国を治めるには孝・弟・慈の三件が必要であることを説いている。これらはすべて情の面からとりあげられている

【ビジネス的解釈】
マネジメントの要諦は、自分自身の感情をいかに適切に処理できるかだと言っても過言ではない。


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