神坂課長のところに、石崎、善久、願海の2年生トリオがやってきました。

「課長、ちょっと話を聞いてもらえますか?」

「なんだ、いつもの仲良し3人組らしくない表情じゃないか!」

4人は会議室に入ったようです。

「石崎、どうしたんだ?」

「はい。簡単に言いますと、勉強することが先か、まず行動すべきかで意見が分かれたんです」

「なるほど。で、どんな派閥ができたんだ?」

「まず勉強してから行動すべきだというのが、ガンちゃんとゼンちゃんです。行動してから学ぶ方がいいと思っているのが私です」

「ははは。ということは、石崎は孤立無援状態なので、俺に助けを求めたというわけか?」

「そ、そうじゃないです! 課長はどう考えるかをお聞きしたいのです。いま課長は、一応部長代行ですし・・・」

「一応は余計だ! しかし、その件はなかなか大事な点だな。今の石崎の質問はどちらを先にすべきかということか、それともどちらが重要かという質問なのか?」

「あー、どっちかな? ガンちゃん、どっちだろう?」

「はい、神坂課長。どちらを先にした方が良いかという質問です」

「そういうことなら、知識を得ることを先にした方がいいだろうな」

石崎君ががっかりしています。

「ただし、それは行動をすることが知識を得ることより重要ではない、ということじゃないぞ。どちらも同じくらい重要なんだ」

「どういうことですか?」

「たとえば、英語を勉強することを考えてみよう」

「え?」

「善久、お前はいきなりアメリカ人の前にいって英語で会話をしろと言われたらどうする?」

「そ、それは無理です。事前に単語とか文法を勉強しないと・・・」

「そうだよな。単語もわからずに会話をしようとしても無理だよな。でもさ、単語と文法だけを学んだら話せるようになるか?」

「いえ、やっぱりその後は直接ネイティブの人と会話をしないと話せるようにならないと思います」

「そういうことだよ。勉強と行動、つまりインプットとアウトプットはどちらも重要なんだ。いくらインプットをしても、アウトプットをする場がなければ、得た知識は自分のものにならないだろう

「はい」

「しかし、なにもインプットせずにアウトプットをしようとしても、良い結果を得られるわけはないよな?」

「神坂課長、よくわかりました。どちらも重要だけど、知識を得る方を先にした方が、より効率的に良い結果を得やすくなるということですね?」

「さすがは願海だな。俺はそう思う。石崎、どうかな?」

「はい。私は行動することが重要だと思っていましたが、やはり準備は必要だということですね」

準備も仕事のうちだからな。ただし、俺はお前の行動力は素晴らしいと思っている。その積極性は失うなよ!」

「ありがとうございます! 勉強になりました。そこで相談ですけど、今日はノー残業デーですから、このまま一緒にお食事に行って、もう少しご指導いただけませんか?」

「なんだ、お前ら。俺を誘い出したのは、それが狙いだったのか!!」

「はい、一応部長代行ですし!」

「一応っていうな!!」


ひとりごと

明代の儒学者、王陽明は「知行合一」をとなえました。

知ることと行動することは本来一体のものである、というのがその趣旨です。

知ったことを行動して我がものとしながら、そこから新たな課題を見つける。

これはビジネスに限らず、スポーツでも、趣味の世界においても大事なことではないでしょうか?


【原文】
知は是れ行の主宰にして乾道(けんどう)なり。行は是れ知の流行にして坤道(こんどう)なり。舎して以て体軀を成せば則ち知行なり。是れ二にして一、一にして二なり。〔『言志後録』第127章〕

【意訳】
知は行いを司るものであるから乾の道すなわち天道のようなものである。行いは知の発揮されたものであるから、坤の道すなわち地道のようなものである。この知と行とが共に宿って人間の身体ができている。知ったことを行ってこそ本当に知ることができ、行ったことをよく検証して知ってこそ本当に行うことができるのであって、この二つは一つであり、また一つのようで二つでもあるのだ

【ビジネス的解釈】
知ることと行うことは本来不可分のものである。行動してこそ知は自分のものとなり、知を得て行動するからこそ真に行動することが可能となるのだ。


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