S急便の中井さんが荷物を届けにきました。
「毎度、S急便です。おー、佐藤さん! 退院されたんですねぇ」
「やぁ、中井君。ご心配をおかけしました。お見舞いのお花ありがとうね」
「え、中井さん。花を贈ったんですか?」
「神坂さん、そうなんです。ちょっと顔は出せそうもなかったので、気持ちだけでもと思ってね」
「偉いなぁ。そういう細かい配慮は見習わないとね」
「そうだ、佐藤さん。また、相談に乗ってもらえますか?」
「もちろん。どうしたの?」
「実は、新しい奴が入社したんですけどね。そいつがめちゃくちゃ打たれ弱いんですよ」
「ははは。いまどきの子供じゃないですか」
「それが、そいつは38歳なんですよ」
「あれ? いまどきでもないな。ほぼ中井さんと俺と同世代じゃない」
「でしょ? 参りましたよ。ちょっと指摘すると、すぐに凹むんですよ。その凹み方がハンパないんです」
「面倒くさそうですねぇ」
「だんだん何も言えなくなってきてしまってね。そういう奴にはどう対処したらいいのでしょう?」
「中井君、それはなかなか難しい質問だね。孟子の言葉に『してはいけないことはしない。求めてはいけないことは求めない。それが君子の道だ』というのがある。その人の経験や知識をよく見極めて、あまりこと細かに指摘しないようにするのが良いかもね」
「なるほど。でも、俺は佐藤さんみたいに徳がないからなぁ。神坂さんと一緒で」
「中井さん、最後の言葉は余計ですよ!」
「その人が、中井君は本当に自分のために言ってくれているんだと分れば、そんなに落ち込まなくなると思うよ」
「たしかに、あいつもこっちを見定めているのかもなぁ」
「私欲がないことをはっきりさせて、言葉より態度で導いていくしかないかもね」
「うーん、難しい! でも、やるべきことは見えた気がします。いつも、ありがとうございます!!」
ひとりごと
孟子のことば、『其の為さざるを為す無く、其の欲せざる所を欲する無し』は至言です。
してはいけないことはしない。求めてはいけないものは求めない。
これはまさに仕事に限らず、処世訓として心に刻んでおくべきでしょう。
【原文】
聖人は無為なり。固と徳を以て感ず。然れども其の為す可き所は則ち之を為す。聖人は無欲なり。固と私心無し。然れども其の欲す可き所は則ち之を欲す。孟子曰く、其の為さざる所を為す無く、其の欲せざる所を欲する無し。此(かく)の如きのみと。〔『言志後録』第143章〕
【意訳】
聖人は自然のままで作為的ではなく、徳で人を感化する。しかし為すべきことはこれを実行している。また聖人は無欲であり、私心はない。しかし求めるべきものはしっかりと求めている。これに関して孟子は「してはならないことはせず、求めてはならないことは求めない。君子の道はそれだけのことである」と言っている。
【ビジネス的解釈】
リーダーは私欲を抑え、徳で人を動かすことを意識すべきである。そのためには、してはいけないことはせず、求めてはいけないものは求めない姿勢が重要である。