今日の神坂課長は、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生に届け物を持って来たようです。

「ああ、神坂君。ありがとう。お手数をおかけしました」

「いえ、ちょうどこっちの方面に来る予定がありましたので、問題ないですよ」

「せっかくだからコーヒーでも飲んでいってよ」

「はい。ここでしか飲めないブルーマウンテン、遠慮なくいただきます!」

「ねぇ、神坂君。次の『令和』という元号はいいよね。『万葉集』から採ったというのもいいし、言葉の響きも素晴らしいよね」

「そ、そうですか? 私には言葉の響きというのはよく理解できないですが、でも、私も『令和』という元号は好きです」

「この世界には、宇宙の摂理が脈々と流れているんだよね。この言葉にはなにか深い意味があるのだと思うよ」

「どういうことですか?」

「『昭和』という元号には、国民の平和と世界の共存・繁栄という願いが込められた。しかし、実際には世界史上最大の戦争が起きたよね?」

「なるほど」

「そして『平成』という元号には、国の内外の平和が達成されるようにとの願いが込められた。しかし、実際には多くの災害があったね」

「たしかにそうですね。阪神淡路大震災、東日本大震災に熊本の地震もありました」

「今度の『令和』には、 人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つという意味が込められているらしい」

「その内容と裏腹の出来事が起きる可能性があるということですか?」

「うん。だからこそ、そうならないように本当の意味で人々が心を寄せ合わないといけないんだと警鐘を鳴らしているのではないかな?」

「『令和』という言葉は、政府が選んだのではなく、宇宙の摂理が選ばせたということですか?」

「私にはそう思えてならないんだ。そして、世界の人々が心を寄せ合い、文化で交流を図るために、日本が果たす役割は大きいと思っているんだよ」

「宇宙の摂理という考え方は大きすぎて私には理解しづらいです」

「ははは。私も本当の意味で理解できているかどうかは怪しいよ。ただ、人間の知識や理論を超えた出来事というのはいくらでもあるでしょう。じゃあ、それは何がそうさせているのかと考えると宇宙の摂理というものがあるのではないかと思えてくる」

「それは神様とは違うのですか?」

「宗教家にとっては、神で良いのかもしれないね。サムシング・グレート(偉大なる何者か)なんて呼ぶ人もいる」

「『令和』とは人々が心を寄せ合い、文化を育てていくという意味があるのか。そうなると、長谷川先生。まずは、家庭内、そして職場内での心の触れ合いが大事だということですよね。『修身・斉家・治国・平天下』ですから」

「おー、さすがは最近いろいろ勉強しているだけのことはあるね。しかし、さりげなく抜かしたけど、一番大事なのは修身だよ!」


ひとりごと

宇宙の摂理、あるいは大自然の法則、神、サムシンググレート、お天道様など呼び方は様々ですが、いずれにしても人智を超えた何者かがこの世界を動かしているように思えます

我々人間は、心の耳を澄ませてその声を聴き、その指示に従うべきなのでしょう。

それに抗わなければ、人間にとって不幸となる出来事は起きないのだと信じましょう。


【原文】
李延平曰く、「理は其の一ならざるを患えず、難き所は分の殊なるのみ」と。李谷子之に反して曰く、「分は其の殊ならざるを患えず、難き所は理の一なるのみ」と。余は則ち謂(おも)う、「二先生の言、各おの得る所有るに似ると雖も、然れども恐らく究竟(きゅうきょう)の語に非ず」と。其の実、真に能く理の一なるを知る者は、即ち能く分の殊なるを知る者なり。未だ理の一なるを知らず、焉んぞ能く分の殊なるを知らん、真に分の殊なるを知る者は、即ち能く理の一なるを知る者なり。未だ分の殊なるを知らず、焉んぞ能く理の一なるを知らん。今難易を以て之を言うは、是れ猶お未だ透らざるなり。〔『言志後録』第145章〕

【意訳】
宋代の儒者である李延平は「理が一つでないことを憂えず、難しいことではあるが、万物においてどう機能しているかを見極めるべきである」といった。これに対して、李谷子は「万物において機能が異なることを憂えず、難しいことではあるが、理が一つであるということを理解するべきである」といった。私は次のように考える。「二先生の言は、それぞれ得る所があるが、おそらく究極の悟りを解明したことばではない」と。実際に、理が一つであることを本当に知る者は、それが万物においてそれぞれに機能することを理解しているはずである。理が一つであることを知らないで、どうして万物において機能していることがわかろうか。また真に万物において別々に機能していることを知る者は、理が一つであることをよく理解しているはずである。万物において別々に機能することを知らないで、どうして理が一つであることがわかろうか。どちらが難か易かと議論することは、透徹した行為とはいえまい。


【ビジネス的解釈】
万物は宇宙の摂理に則って動いている。宇宙の摂理はただ一つであるが、それがあらゆる物のなかに息づき、それぞれの役割を果たさせているのだ。


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