神坂課長はゴールデンウィークの前夜、「季節の料理 ちさと」へ顔を出したようです。

「あら、神坂君。今日はひとりなの?」

「うん。佐藤部長は出張だからね。休み中はママの顔が見れないから、最後に会いに来た」

「うれしいこと言ってくれるわね。神坂君の会社は10連休なの?」

「いや、ウチは30日と2日は出社日だよ。でもまあ、どちらかは休みましょうという感じなので、俺は30日は休むけどね」

「そうか。ウチは30日と2日、3日はお店を開けるつもり」

「あ、そうなの? じゃあ2日も来るかな」

「ぜひ、お願いします。ところで、神坂家は家族でどこかにお出かけしないの?」

「カミさんはパートがあるし、息子たちは部活があるからね。息子のテニスの試合でも観戦しようかな」

「神坂君は野球をやってたのよね? テニスは教えられるの?」

「いや、ド素人。この前も試合に負けて落ち込んでいるのに、なんと声をかけるか悩んだよ」

「息子さんにも厳しくしてきたんでしょ?」

「ガキの頃はね。甘やかして人様に迷惑をかけるような人間にはしたくなかったしね。って、俺が言うのもなんだけどさ」

「ほんとだ。佐藤さんをあれ程悩ませたのは誰だったっけ?」

「それを言われると何も言えません・・・。ただ、厳しくし過ぎたせいで、親をリスペクトする気持ちもなさそうだなぁ」

「子育ては大変ね。甘やかしすぎてもダメだし、厳しくし過ぎてもダメだもんね」

「部下指導も同じだけどね。最近、いろいろと本を読んで、子供の主体性を育てないといけないんだと気づいたんだけど、もう遅いかもな」

「なにごとも始めるのに遅いということはないよ。親子は深い愛情でつながっているはずだもん」

「そうかな。まあ、テニスを通して、少しそんなことを話してみるかな」

「あっ、ゴメンね! まだ、ビールも出してなかったね」

「そういえばそうだ。ママ、喉が渇いたよ。生と適当なつまみをお願いします」

「さっき、タラの芽のてんぷらを作ったの。それでいい?」

「おー、最高じゃん!!」


ひとりごと

子供を育てるにしても、部下育成にしても、甘やかすことと厳しくすることのバランスはとても難しいですね。

最近はすぐに〇〇ハラスメントだと言われてしまうので、教育がより難しくなっている気がします。

しかし、想いを込めて教育をすれば、心と心が通じ合うはずです。

子供は親子ですから当然ですが、部下の社員さんであっても、心から家族だと思って接するなら、必ず想いは届くと信じましょう!


【原文】
子を教うるには、愛に溺れて以て縦(じゅう)を致す勿れ。善を責めて以て恩を賊(そこな)う勿れ。〔『言志後録』第159章〕

【意訳】
子供を教育する際には、溺愛して放任してはならない。また善い行いを強要して親子の恩愛の情を損なうようなことがあってもいけない

【ビジネス的解釈】
部下の教育については、自分の好むメンバーを甘やかすようなことは避けるべきだ。また、仕事を強制して上下の関係を悪化させることも避けるべきである。


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