今日の神坂課長は、営業部の大累課長、新美課長、人事課の鈴木課長と4人でランチを食べているようです。

「俺が会社を経営するなんて、そりゃ無理だぜ」

「神坂、社長も無理だって決めつけるなって言ってたじゃないか」

「そうですよ、神坂さん。せっかく機会を頂くんですから、しっかり勉強しましょうよ」

「新美、まあそうだな。ジュニアがしっかり継いでくれれば問題ないんだからな」

「ぜひ、継いでもらいましょう。神坂さんが社長になるなんて、恐ろしすぎますから」

「大累、どういう意味だよ」

「社長が出入り禁止になるような会社はないでしょう」

「お前な、もし仮に俺が社長になったら、俺だってそのくらいのことは弁えるよ」

「できるかなぁ?」

「うるせぇ! しつこいんだよ!」

「ははは。だけど、人の上に立つ者は必ずしも多才な人である必要はないんじゃないか。むしろ、才能が有り過ぎる人はいろいろとやり過ぎて、かえって会社を滅茶苦茶にしてしまうかも知れないぞ」

「鈴木、それで思い出した! 佐藤一斎先生がそう言っていた。それほど才能のない君子でも国は治められるし、才能の高い小人はかえって国を乱す』ってな」

「なるほどな」

「神坂さん、どういうことですか?」

「大累、要するにだ。お前のような小人が会社のトップに立つと、能力が高くても人の心を操れないだろう。しかし、俺のような君子が上に立てば、才能はなくても、人の心がわかるからうまく国も会社も治められる、ってことだよ」

「すいません。例えが下手過ぎてよく理解できません」

「ゴン!」

「痛っ! ほら、すぐそうやって暴力をふるうような人が人の上に立つ方がよっぽど問題ですよ!」

「ははは。確かに神坂の例えは滅茶苦茶だが、意味はそういうことだよ。要するに才能より徳が重要だということだな。しかし新美、神坂と大累には会社を任せない方が良さそうだな」

「鈴木さん、カミサマと俺を一緒にしないでくださいよ!」

「大累さん、そういうのを目糞、鼻糞を・・・。痛っ!」

「誰が糞やねん!」

「鈴木さん。やっぱりジュニアにしっかり後を継いでもらいましょう。そして、もしそれが駄目だとなったら、絶対に鈴木さんか私が会社を継ぎましょうね。こんな小人二人のどちらかがトップになったら、一家崩壊ですよ!」


ひとりごと

故伊與田覺先生は、こう言っています。

人間には「徳」と「才」の両方が大切でありますが、才よりも徳の優れた人を君子といい、徳よりも才のほうが優れている人を小人というのです。

もちろん、才能はあるに越したことはありませんが、しかし才能だけでは国や会社は治められないということでしょう。

人の上に立つためには、才を磨くと共に、心を磨き徳を身に着ける必要があるのです。


【原文】
君子にして不才無能なる者之れ有り。猶お以て社稷を鎮む可し。小人にして多才多芸なる者之れ有り。秖(た)だ以て人の国を乱るに足る。〔『言志後録』第166章〕

【訳文】
君子と呼ばれる人でも才能も能力も無い人もいる。それでも国家を安定させることができる。小人と呼ばれる人でも才能も能力も高い人がいる。こういう人は国を乱す元になる

【所感】
経営は才能だけではうまくいかない。才能以上に必要なのは徳である。


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