営業部の大累課長と新美課長が同行しているようです。
「どうだ新美、あいかわらず清水には苦労しているのか?」
「はい、いまだに距離感に悩んでいます」
「あいつはキレ易いからな。キレるという点ではカミサマ以上だな」
「幸い、それほど大きなトラブルは起きていませんけどね」
「人間の感情って扱いが難しいよな。無理に押さえつけすぎてもいけないし、かといって何もケアしないのもよろしくない」
「本当にそう思います」
「いわば感情のダムみたいなものを作っておかないといけないんだろうな」
「どういうことですか?」
「ダムというのは、水を適度にせき止めて、適度に流すだろう。感情も同じでなんでもかんでも感情を自由に発露させないように抑えつつ、しかしせき止めすぎて感情を爆発させないように、時には堤防をあげて感情を表に出させてあげる必要があるんじゃないかと思うんだ」
「なるほど」
「そのためには結局、One to One で話をするのが一番良いんだろうな」
「そうでしょうね。ただ、清水さんはそれをすごく嫌がるんですけどね」
「あいつは照れ屋でもあるからな。面談という形でなくてもいいだろう?」
「そうですね。時々、相談ということで二人で話をさせてもらっています」
「それはいいね」
「ところで大累さん。雑賀君はどうですか?」
「ウチの問題児か。だいぶあいつの良さが見えてきたよ。以前ほどは揉めなくなったかな」
「ははは。いまだにたまには揉めるんですね?」
「それこそあいつはちょっと気を許すと、すぐに調子にのるからな」
「やっぱりダムのように、適度にせき止める必要性はあるんですね?」
「間違いないよ。佐藤部長がカミサマ専用の感情のダムを作ったようにね!」
ひとりごと
人情を水の流れに例えた一斎先生のこの言葉は、すっと腹に落ちます。
組織の中では、ある程度は感情をコントロールすることを覚えなければいけませんが、しかし我慢し過ぎて爆発することもないようにしたいものです。
人の上に立ったときは、そのことをよく理解して、メンバーの感情の溜まり具合を把握する必要がありそうです。
【原文】
人情は水の如し。之をして平波穏流の如くならしむるを得たりと為す。若し然らずして之を激し之を壅(ふさ)がば、忽ち狂瀾怒濤を起さん。懼れざる可けんや。〔『言志後録』第169章〕
【意訳】
人情とはいわば水のようなものである。平穏で波立たせないようにすることが最も良いことである。もし刺激したり押さえ込んだりすれば、たちまち恐ろしいほど荒波となって暴れまくるであろう。慎重に取り扱わないわけにはいかない。
【ビジネス的解釈】
人の感情は水の流れのようなもので、無理に刺激をしたり押さえ込んだりすれば、激流となって襲い掛かってくる。常にゆったりとした流れをつくるように接することが重要である。