今日の神坂課長は、佐藤部長の部屋で雑談をしているようです。

「この前、居酒屋で飲んでいたらいきなり真っ暗になりましてね。なんだろうと思ったら、電気がつくと同時に隣のテーブルにケーキが運ばれて来たんです。いわゆるサプライズってやつですよね」

「ははは。私も経験があるよ」

「あれは、いい迷惑ですよね。なんとなくこっちまでお祝いしてあげなきゃいけないムードになりますしね」

「別にお祝いしてあげればいいじゃない」

「そうかもしれないですけど、全然知らない人ですしね。それによく見たらけっこうなおっさんが誕生日らしいんですよ。思わず、お前かい!って突っ込みそうになりましたよ」

「ははは。別におっさんを祝ってはいけないという決まりはないじゃない」

「そうですかね、だいたいああいうのは若者と相場が決まっていませんか?」

「まあ、たしかにあまり見ないけどね。(笑)」

「最近、やたらとサプライズを喜ぶ風習があるようですけど、あれはどうなんでしょうかね。電気まで消す必要があるのかよ、って思いません?」

「周囲への配慮は足りないかもね。仕事でもそうだよね。あまり奇をてらったことをやろうとすると、かえって大きな失敗を招くこともあるからね」

「たしかにそうですね。私も課長になりたての頃は、なんとか色を出そうと思って、結構無茶をしました」

「そうだったね。ほとんどは私が却下したけどね」

「はい。その当時は、保守的な人だなと思いましたけど、今思えば滅茶苦茶な提案も結構ありましたから、当然の処置だと思います」

「ははは。あの時はだいぶ恨まれたよね。しばらく口もきいてくれなかったもんね」

「え、そうでしたっけ? 我ながら大人気ないなぁ」

「かつて、キリンビールがシェア1位を独走しているときに、一番売れ筋のラガーの味を変えたことがあったよね。その後、キリンはアサヒにシェアを奪われて大苦戦をしたんだ」

「なんとなく覚えています。たしか苦味を抑えたんですよね」

「一部の顧客から苦いという評価があったので、味を変えたらしいんだけど、それで『苦くなければラガーではない』っていうコアなファンを失ったんだね」

「チャレンジスピリットは素晴らしいですけど、やはり好調なときに新しいことをやるのはリスクも高いということですね」

「うん、保守的になりすぎて、顧客の好みの変化に気がつかないのもいけないけどね」

「平穏とチャレンジのバランスは難しいですね。忘れてはいけないのは、お客様に喜んでいただくために我々の仕事があるということでしょうね!」


ひとりごと

変えてはいけないものと、変えなければならないもの、これを見極めるのはとても難しいことです。

変えるべきものを変えなければ、組織や製品は時代遅れとなり、お客様から捨て去られます。

しかし、変えてはいけないものを変えてしまうと、せっかくのコアなファンを失います。

常に、市況を読み、顧客心理を把握するためにも、営業部門は現場に出なければいけません。


【原文】
凡そ事を処するには、須らく平平穏穏なるを要すべし。人の視聴を駭(おどろ)かすに至れば、則ち事は善(よし)と雖も、或いは小過に傷つく。〔『言志後録』第170章〕

【意訳】
おおむね物事を処理する際には、すべて平穏に処するべきである。人々の耳目を驚かすようなことをすれば、その事自体は良くても、結果的に小さな誤りを招いて自らを傷つけることになる

【所感】
仕事を処理する際は、奇をてらわず、シンプルに事を処すべきである。自分の個性を出そうとして無理に何かを変えようとすると、思わぬ結果を招く恐れもある。


beer_man