今日の神坂課長は、商談内容について石崎君に指導をしているようです。

「ということで、今日は注文がもらえませんでした」

「石崎、お前の営業には誠意が足りないんじゃないの、誠意が!」

「神坂課長、『誠意』ってどういうことですか?」

「お前、『誠意』もわからないのか? 『誠意』というのはな・・・。あれ、あらためて言われてみると説明できないかもな」

「・・・」

「なんだよ、人を軽蔑するような目で見るな! ちょっと待ってろ、部長に聞いてくる」

神坂課長は、佐藤部長の部屋に入っていきました。

「ということで、『誠意』ってあらためて質問されると説明ができなかったんです。ちょっと教えてもらえませんか?」

「ははは。それで指導を中断して、ここに来たの? さすがは神坂君だね」

「なにがさすがなのかわかりませんが・・・」

「その素直さだよ。わからないことを適当に誤魔化すのではなく、しっかり理解してから伝えようとするその気持ちがまさに誠意だよ」

「ああ、なるほど。でも、やはり説明しろといわれると難しいです」

「そうだね。『誠意』という言葉は、『大学』という古典のなかに出てくる言葉でね。意を誠にする、という意味なんだ」

「意を誠にする? どういうことですか?」

「金谷治先生の訳によると、『自分を誤魔化さないこと』だとなっているね。もう少しわかりやすく言えば、たとえ誰も見ていないような場面においても、自分のやるべきことに力を尽くすこと、となるかな」

「なるほど、そういうことですか。石崎の商談では、あと一歩のところで受注に至りませんでした。そこに誠意がないと感じたのですが、それ自体は間違いなさそうですね」

「詳しい内容がわからないからなんとも言えないけど、やはり商談においては、誠意は必要だろうね」

「ありがとうございます」

神坂課長は石崎君のところに戻ってきました。

「要するに、お前のやるべきことをすべてやり尽くしたか?ということだな」

「すべてと言われますと・・・。たしかに、先生のお役立ちということより、売上に意識が行ってしまっていたかも知れません」

「たしかに売上を追いかけながらお客様の満足を求めろ、というのは言う側も時に矛盾を感じないわけではないんだよ。でも、満足して買ってくれたお客様でなければ、次回はウチから買ってくれないからな」

「はい。もう少し院長の想いを聞いて、クロージングに結び付けます」

「石崎、成長したな。しかし、今日はお前のお陰でひとつ勉強になったよ。ありがとう!」

「ということは、神坂課長のご指導にも誠意が足りなかったということですね!」

「お前が言うな!!」


ひとりごと

「誠意」という言葉が安易に使われているように感じます。

自分の心をフル活用して、相手のためにやるべきことをすべてやり尽くす。

誠意を見せるとは並大抵なことではないのです!


【原文】
此の学、意趣を見ざれば、風月を咏題するも亦俗事なり。苟も意趣を見れば、銭穀(せんこく)を料理するも亦典雅なり。〔『言志後録』第172章〕

【意訳】
儒学においては、心の深い働きをしっかりと見ることができなければ、風月を題材に詩を吟じてみても世間の俗事に過ぎない。かりにも心の深い働きを見るならば、お金と穀物を処理する場合であっても高尚で雅やかなものになる

【ビジネス的解釈】
どんな瑣末な仕事であっても心の誠を尽くせば尊い仕事となる。雑用だと思うから雑用になるのだ。


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