「毎度ぉー、S急便です。神坂さーん、届け物ですよ!」

「ああ中井さん、俺に届け物ですか? なんだこのデカイ箱は!」

「中身はスイカみたいですよ」

「スイカ? 誰からの贈り物だろう?」

「太田さんという方みたいです」

「太田?」

「あー、課長! あのヤクザ屋さんじゃないですか?」

「太田敬介、間違いない、太田だ!」

「神坂さん、ヤクザと知り合いなんですか? やっぱり堅気じゃないところがあるとは思っていましたけど・・・」

「中井さん、勘弁してくださいよ。高校の同級生なんですよ。この前、久しぶりに再開しましてね、こいつの失態のお陰で」

神坂課長が石崎君の頭をコツンと叩きました。(石崎君の失態の経緯については、第1550日をご参照ください)

「暴力反対!と言いたいところですけど、だいぶ助けていただいたので、ここは我慢、我慢」

「しかし、参ったなぁ。物には念が籠もるなんていわれるだろう。このスイカには、太田の悪い念がたくさん含まれている気がするな」

「うわぁ、そんなこと聞いたら、もう食べれませんよ」

「なにを言ってるんだ、石崎。元々はお前が蒔いた種だ、お前が処分しろ!」

「めちゃくちゃですよ!」

「朝から騒がしいね。何を騒いでいるんだい?」

佐藤部長が部屋から出てきたので、神坂課長が顛末を話して聞かせたようです。

「ははは。そういうことか。ところで神坂君、太田さんのご実家が農家なんだよね? 御両親はこんな素晴らしいスイカを作る人なんだから、立派な人なんじゃないの?」

「2・3度しか会ったことはないですが、たしかにやさしい御両親だった気がします。ただ畑仕事が忙しくて、太田のことはあまりかまってやれなかったと言っていました」

「それなら、そのスイカには御両親のやさしい心が籠められているんじゃないの?」

「なるほど、そうか。じゃあ、みんなでいただきますか? 太田には後でお礼の電話を入れておきますよ」

「へぇー、皆さんはそういう考え方をしているんですね。俺は物を運ぶのが仕事だけど、そういうことは考えたことがなかったなぁ。物に念が籠もるわけか。そして俺はその念と共に物を届けているんですね」

「中井さん、そういうことになりますね」

「それなら、良い念はそのまま運び、悪い念は俺が断ち切って物を運ぶことを考えますよ」

「どうやって?」

「今はわかりません。だから、佐藤さんと神坂さんにはアイデア出しに協力してもらいたいですね!」


ひとりごと

実は小生も物に念が籠もるなどと考えたことはありませんでした。

しかし、思い出してみると、米国の超能力捜査官の中には、物の残留思念から事件を解決する糸口を見つける人がいるというテレビ番組を観たことがあります。

一概に否定できないのかも知れません。

いずれにしても、心の捻じ曲がった人からの贈り物は受け取りたくないですね。


【原文】
物には心無し。人の心を以て心と為す。故に人の贈る所の物、必ず其の人と同気なり。失意の人、物を贈れば物も失意を以て心と為し、豪奢の人、物を贈れば物も豪奢を以て心と為し、喪人(そうじん)、物を贈れば物も喪を以て心と為し、佞人(ねいじん)、物を贈れば物も佞を以て心と為す。但だ名有るの贈遺は受けざるを得ず。而も其の物の其の心と感通すること是の如くなれば、則ち我は受くるを屑(いさぎよ)しとせざる所有り。唯だ君父の賜う所、正人君子の贈る所、微物と雖も、甚だ敬重するに足るのみ。〔『言志後録』第175章

【意訳】
物そのものには心などないので、人の心がそのまま物に遷るものである。よって、人が贈る物は、その贈り主の心境を反映することになる。失意の人が物を贈れば、その物にも失意が遷る。奢った人が物を贈れば、その物にも奢りの心が遷る。国を逃れている人が物を贈れば、その物にも喪失の思いが遷る。口先だけの人が物を贈れば、その物にも佞の心が遷るものである。ただし、名目のはっきりした贈り物は受け取らないわけにはいかない。ところが上述したように、その贈り物は贈り主の心を反映しているものであるから、気持ちよく受け取れないところもある。ただ君主や父親からの賜り物や心の正しい人や立派な人からの贈り物については、どんな小さなものであっても、大いに敬重するべきである

【ビジネス的解釈】
物には念が遷り込むと言われる。したがって、心持の宜しくない人物からの品物は受け取らない方がよい。物の良し悪しではなく、送り主の心をよく吟味すべきなのだ。


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