今日の神坂課長は、佐藤部長と並んで、「季節の料理 ちさと」のカウンターに座っているようです。
「ちさとママ、いよいよビールの旨い季節がやってきたねぇ。商売繁盛の季節だよ!」
「神坂君、何度も言いますけど、うちはお料理を楽しんでもらうお店なの! だから、一年中繁昌させてもらってますからね!」
「その素直じゃない性格は治らないのかね? 部長、やっぱり短所を矯正するのは難しいみたいですね?」
「あら、私は短所だと思っていませんからね!」
「ははは。今のママの応対が短所の表れかどうかは別として、短所を矯正することは可能だとは思うよ。ただし、同じ『きょうせい』でも『強制』では治せないだろうけどね」
「なるほど。つまり、自ら治そうと思わない限り治らないということか! ママは素直じゃないのが短所だと思っていないから治らないんだな!」
「神坂君こそ、人にちょっかいを出すその悪い癖は治らないのかなぁ」
「まあまあ、二人とも。強制はできないけれど、気づかせることはできるはずだよ」
「ああそうだ、私のバイブルにはこう書いてあったわ。知識や技術みたいな外面的な事柄と性格のような内面的な事柄では性質がまったく違うってね」
「ママ、どういうこと?」
「神坂君はお料理が苦手だよね?」
「飯も炊けない!」
「それは外面的な短所だから、それを改善しようと努力することは、それほど効果は期待できないでしょう。でも、性格面の長所と短所というのはコインの裏表みたいな関係だから、短所
の矯正がそのまま長所を伸ばすことになるらしいわよ」
「ということは、まず自分には性格面と技能面にそれぞれ長所と短所があることをよく理解して、性格面の短所については矯正しようと心がければ、短所を長所に変えることができるということだね」
「そうね。でも、技能面の短所は矯正しても長所にはならないから、あまり無理して矯正しようと思わない方が良いのかもね?」
「そうだね。理系の人と文系の人では、頭の構造がまったく別物だからね。文系の俺が無理して物理を学んでも得るものは少ないということか!」
「そういうこと!」
「ははは。まさか、始めの二人のバトルが、こんな薀蓄のある話に落ち着くとは思わなかったよ」
ひとりごと
精神面の短所は矯正すれば、そのまま長所になる。
しかし、技能面の短所は矯正しても、長所にはなりえない。
この話を始めて聞いたときは、衝撃を受けました。
それまでは精神面と技能面の長所短所を分けて考えることをしていなかったからです。
これは知ってからは、メンバーの長短の質をみてアドバイスができるようになりました。
【原文】
人は当に自ら己の才性に短長有るを知るべし。〔『言志後録』第178章〕
【意訳】
人間は自分の才能や特性には必ず短所と長所があることを知っていないければならない。
【ビジネス的解釈】
人には才能と性格の両面に長短があることを理解しておくべきだ。