今日の神坂課長は、善久君と同行中のようです。
「善久、今のクロージングだけどな。まだ、無駄が多い気がするな」
「やはり、そうですか。すこし話し過ぎたかなと思っています」
「営業には間が必要だという話はしているよな。お前の商談は、相手に考えるための間をほとんど作っていないんだよ」
「あー、そうかもしれません」
「一所懸命なのは伝わるだろう。若いうちはそれでもいい。でもな、やはり言葉は磨いた方がいいぞ」
「言葉を磨く?」
「そう。なるべく短い言葉で簡潔に、そして相手のストライクゾーンど真ん中に投げ込むイメージだ」
「私は野球のことはよくわからないので・・・」
「ちっ、そうだったな。要するに、相手の心に残るキラー・ワード、つまり殺し文句を考えることが大事だということだ。できれば単語ひとつ、多くてもワンフレーズでな!」
「そこまでは考えていなかったです」
「クロージングのときは、まず最初に、今日はクロージングに来たことを明確に伝える。その上で、提案する商品がお客様のお役に立てるという確信を伝える。そのときにキラー・ワードを使うんだ」
「なるほど」
「そして、相手の関心を惹いたところで、その理由を3つ話す。ひとつじゃ少ないし、5つだと多すぎる」
「はい」
「その3つの理由も簡潔にな。できればワンフレーズで語るんだ」
「その後は間をつくって、お客様に考えてもらうんですね?」
「そうそう。お客様自身が自分の心の中でクロージングするのを待つんだよ」
「そういうことか!」
「馬を水辺まで連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない。それと同じように、この商品がどれくらいお役に立てるかは話すことができるが、注文を強要することはできないだろう。お客様自身が自ら注文を出すのを待つしかないわけだ」
「か、課長。すごくありがたいアドバイスなんですけど、運転中なのでメモができません。あとでもう一回話してもらえませんか?」
「たわけ! メモに頼るな。自分の心にメモをとれ!」
「・・・」
「どう? いまのキラー・ワード、決まった?」
ひとりごと
小生は毎月一回、永業塾という学び・気づきの場で、言葉を磨く鍛錬をさせてもらっています。
間の大切さ、3の魔法などは、すべて塾長である中村信仁さんから学んだものです。
そして、これは効果絶大です。
言葉を磨いた上で、こうした技術を活用すれば、必ず売れる営業人になれます。
【原文】
言語・文章は一なり。文は宜しく経を師とすべし。「辞、体要を尚ぶ」は周公なり。「辞、達するのみ」は孔子なり。〔『言志後録』第206章〕
【意訳】
言語と文章はひとつのものである。文章は経書をお手本とすべきである。『書経』の中の周公旦の言葉に「辞は体要を尚ぶ」(言葉は簡単で要領を得ることが大切である)とある。。また『論語』にも孔子が「辞は達するのみ」(言葉は意志が通ずればそれでよい)と述べている。
【一日一斎物語的解釈】
言葉も文章もコミュニケーションの手段である。したがって、こちらの意図や想いが簡潔に伝わるように、言葉や文章を磨いてかねばならない。