ミュージシャンの笠谷俊彦は、マネージャー和田の仲介で、中堅の作詞家・ふちすえあきと顔を合わせた。

ふちは、サラリーマンを続けながら、年間に3~5曲程度のヒット曲の作詞を手がけている。

年齢は、ふちの方が笠谷より5歳程度年上のようだ。

「ふちさんは、曲をもらってから詩を書くタイプですか? それとも、先に詩を提供して曲をつけてもらうタイプですか?」

「どちらも手がけるけど、先に詩を書く方が好きだな。コンセプトをもらって、そのコンセプトを映像でイメージして、そのイメージに最適な場所に行って詩を書く、というのが僕のスタイルなんだよね」

「ふちさんの詩は、聴く人に勇気を与えるような詩が多いですよね」

「僕は、歌の歌詞といえども、しっかりとしたメッセージを込めるべきだと思っている。できれば、人生の挫折を味わった人が曲を聴いて、もう一度頑張ろうと思える詩が書きたいんだ」

「まさに今の俺ですね。過去の栄光に縛られて八方塞ですから」

「笠谷君はまだ若い! 過去ではなくて、未来を見据えよう。そして、明るい未来を創るためには、今を輝くしかないんだ」

「今を輝く・・・」

「志だよ、笠谷君。有名になりたいとか、売れたいとかではなく、君の歌を通して何を伝えたいのか? 聴き手にどんな今を歩いて欲しいのか? それをハッキリさせないとね!」

「志、ですか?」

「そうだ。自分がどうなりたいではなく、周りの人をどうしたいのか? それが志だよ」

「ふちさん、そういう詩を書いてください。一度、ヒット曲を出したけど今はどん底にいるシンガーが、今何をすべきかを教えてくれる詩を!」

「やってみよう。今、何をすべきかについては、僕に任せてくれる?」

「もちろんです。俺はその詩に曲をつけて、毎回歌うたびに自分を励まし、そして同じような環境にいる人を励ましたいと心から思えました!」


ひとりごと

森信三先生は、名著『修身教授録』の中で、本は一冊を読みおえてはじめてひとつの円を描けるが、語録はただだちに円心を衝くことができる、と述べています。

つまり、短い言葉だからこそ、目にした瞬間、すぐに行動につなげることができる点で、語録は書籍に勝るということでしょう。

詩もまた語録に比べれば文字数は多いかもしれませんが、数分で読み終えて、すぐに生きる勇気や知恵を得ることができます。

もっと、詩を読むべきですね。

小生も敬遠していた漢詩にチャレンジしてみます。


【原文】
詩は志を言うに在り。離騒・陶詩の如きは、尤も能く其の志を言えり。今の詩人は、詩と志と背馳す。之を如何せん。〔『言志後録』第208章〕

【意訳】
詩というものは作者の志を表現するものである。屈原の『楚辞』にある「離騒」という詩や陶淵明の詩などはもっとも作者の志を伝えている。ところが今時の詩人は、詩とその心とが背反してしまっている。どうしたものだろうか

【一日一斎物語的解釈】
素晴らしい詩には、作者の志が込められている。生きる勇気を与えてくれるような詩を読むべきだ。


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