「神坂くーん! 今度の競艇はいつだっけ?」
「か、会長! 仕事中に大きな声で競艇の話をしないでくださいよ~。みんなこっちを見てるじゃないですか!」
「あ、ごめん。少し耳が遠くなってきたからか、声が大きくなりがちでね」
「そういう問題じゃない気がしますけど・・・。競艇はあさってですよ」
「(ひそひそ声で)そうだったね」
「今頃、声を潜めても遅いです!」
「ああ、そういえば昨日、犬飼先生のところに行ってきたよ。先日、梅田君が怒らせちゃったんだろう」
「はい。よく御存知で」
「犬飼先生から電話があってね。『相原さんに文句を言ったらスッキリしたから来なくていい』と言われたんだけど、そういう訳にはいかないよね」
「さすがです」
「神坂君、これからの時代は高学歴の人が活躍できるとは限らない時代になってきたようだね」
「どういうことですか?」
「犬飼先生が話していたんだ。これからの医者は知識と技術だけでは生きていけないって。たとえば、診断について言えば、かなりの部分をAIがやってくれる時代が来るし、オペにしたって、ロボット技術が進化すれば、いつかはすべてロボットがやってくれる時代が来るかも知れないそうだよ」
「なるほど、あり得ない話ではないですね」
「これからは益々、医者に人間力が求められる時代になると断言していた。人間力というのは、対人折衝の能力とか直観や智慧を駆使して人の心をつかむ能力のことらしい。リーダーシップもそこに含まれるようだね」
「そうなると高学歴は関係なくなる、ということですか?」
「うん、そうらしい。患者様や仲間のスタッフの気持ちに寄り添うことができる医者が選ばれていく時代になるそうだよ」
「それは営業も同じですね。これからの時代は益々、知識と技術だけでは売れない時代になります。まあ、私は昔から知識も技術もないまま営業をしてきましたけど。(笑)」
「学歴もないもんね!」
「それはお互い様です! しかし、ベテランドクターとベテラン営業マンの会話は薀蓄がありますね。すごく勉強になります」
「老人といわず、ベテランというところに神坂君の配慮を感じるな。さすがだよ」
ひとりごと
小生の勤務先には、内視鏡を黎明期から売り続けてきた伝説の会長がいます。
時々、小生のところにもやって来て話をしてくれるのですが、今の時代でも参考になるお話が沢山あります。
どれだけ時代を経ても、営業という職業の根底に流れる本質は変わらないということを教えていただける貴重な存在です。
【原文】
老人の話は、苟(かりそめ)に聞く可からず。必ず之を記して可なり。薬方を聞くも亦必ず箚記(さっき)す。人を益すること少なからず。〔『言志後録』第212章〕
【意訳】
老人の話は、いい加減な気持ちで聞いてはならない。必ず記録しておくべきである。薬の処方を聞く場合もまた必ずその都度書き残しておくべきである。ともに後で何かの役に立つことがあるはずである。
【一日一斎物語的解釈】
ベテラン社員の話には真摯に耳を傾け、時代を超えた仕事の本質を捉えて記録しておくとよい。

