神坂課長は、同業Y社の織田課長に声をかけられたようです。
「神坂さん、知ってる? N器械が大変なことになっているらしいよ」
「え、あの中堅企業がまさか!」
「いや、あそこの社長は公私混同が激しい人だからね。マセラティの高級車を乗り回し、高級住宅街にある豪華なお屋敷にお住まいだもんね」
「夜の世界でも有名な人みたいですね。いずれにしても住む世界が違いすぎますよ」
「その割には社員への締め付けは厳しいようで、管理職の給与が減らされたり、残業規制も強化していて、かなり社員が疲弊しているようなんだ」
「そういえば、この前あそこの杉尾君にあったけど、なんかやつれていたなぁ」
「それで、中核を担っていた数人の社員が謀反を起こしたらしいよ」
「謀反?」
「集団退職だね。どうもA社さんに入るという噂が出ているよ」
「ああ、A社は最近、この地区を重点地区にしているとは聞いていました」
「少なくとも5人は抜けるらしい」
「5人ですか! みんな中堅クラスの社員さんですよね? それは大打撃だろうな」
「市況が厳しいときだからこそ、トップ自らが襟を正さないといけないんだよな」
「利益も取りづらくなってきた現状では、無駄な出費は極力抑えていく。そういう意味でコストの見直しは大事でしょう。ただ、それをやるなら、まずトップ自らが慎むべきだということでしょうね」
「一方でなんでもかんでも出費を抑えるのも考えないとな」
「そうですよね。優秀な人材を迎えるには今まで以上に投資が必要なようですし、社員研修にも投資していくべき時代です」
「そこを抑えてしまえば、結局、有能な社員は入ってこない上に、既存の社員も成長しないから、自分で自分の首を絞める結果になるなぁ」
「何に投資し、何を抑えるか。ちょっと帰ったらウチでも議論してみたいテーマです」
ひとりごと
本章の一斎先生の言葉には、2つのメッセージがあります
ひとつは、トップが自ら倹約を意識すること。
2つ目は、お金を使い方にメリハリをつけること。
この2つをしっかりと行えば、自然と企業は成長できるということではないでしょうか?
これからの企業は、教育に投資をしなければ生き残れません。
どこを抑えて教育に投資すべきかを真剣に考えるべきときが来ています。
【原文】
禹は吾れ間然するところ無し。飲食・衣服・宮室、其の軽重する所を知る。必ず是の如くにして、財も亦乏しからず。〔『言志後録』第225章〕
【意訳】
「禹王の業績については非難の口をはさむ余地が無い」と『論語』にもあるように、禹王は飲食・衣服・宮廷を質素にし、物事の軽重をよく理解していた。このようにしていれば、財貨が不足することはない。
【一日一斎物語的解釈】
企業のトップは、何に投資をし、何を質素にするかを常に理解しているべきである。すべてを質素にし過ぎれば、かえって社員の心はすさんでしまいかねない。