今日の神坂課長は、同業Y社の織田課長と飲みに出かけたようです。

「神坂さん、N社はさらなる窮地に追い込まれたね」

「ああ、社員さんの不正が発覚したらしいですね」

「架空請求をしたらしい。逮捕された吉野さんは、N社のエースだよね。これはN社崩壊の危機じゃないのか?」

「吉野さんは、例の退職する5人には入っていないのですか?」

「そうみたいだよ。でも、これで彼もクビだろうから、全部で6名が抜けることになるんじゃない?」

「それもほとんどが中核メンバーなんですよね?」

「それは間違いないみたい」

「でも、吉野さんは会社のエースなのに、なぜそんなことをしたのでしょう?」

「俺は、ある意味で彼も被害者かもしれないと思うな。あの会社は売っても売らなくてもそれほど査定に差がつかないんだそうだよ。それが不服で例の5人は退職に踏み切ったんだろうけど、吉野さんは不正で自分の懐を潤すことを考えてしまったんだろうな」

「なるほど」

「吉野さんはよくドクターとも夜の街に出ていたようだからね。その経費なんかは自分で工面していたらしいから、そういう費用に充てたんだろうな」

「なんか切ないな。せっかく優秀な社員さんがいるのに、それを活かしきれないというのはトップの責任ですよね。N社長はクズ野郎だな!」

「お、だいぶ熱くなってきたね。でも、俺もそう思う。優秀な社員ほど、扱いも難しいよね。ウチの会社だってエース級の連中はみんな一癖あるもんな」

「ははは。ウチのエースの清水も一癖どころか二癖も三癖もありますよ」

「そういう神坂さんもそうとうな曲者だよね」

「その『クセ』は意味が違いません?」

「あ、バレた? でも、そういう連中をしっかりと善い方向に導いてやるのがトップの役割なんだろうな

その後、神坂課長は平社長が以前に話していた「真・善・美」という社是について考えながら帰宅したようです。


ひとりごと

才能のある人が必ず不正をするわけではありません。

しかし、有能であるがゆえに、凡人では気づかないシステムの盲点や取引の盲点に気づいて、ちょっとした出来心で、ということはあり得るのかも知れません。

人には性善説で接し、仕組みは性悪説でつくる。

これがひとつの考え方だとは思いますが、やはりトップ自らが人間力で社員さんを導いていく姿勢は絶対に必要でしょう!


【原文】
財を理(おさ)むるには、当に何の想を著(つ)くべきか。余謂(おも)えらく、「財は才なり。当に才人を駆使するが如く然るべし」と。事を弁ずるは才に在り。禍を取るも亦才に在り。慎まざる可けんや。〔『言志後録』第227章〕

【意訳】
財産を運用するには、どういう考え方に立つべきであろうか。私は思う、「財は才能である。だから才能のある人を使うように取り扱うべきである」と。事を処理するのも才能であり、禍を呼ぶのも才能である。慎まないわけにはいかない

【一日一斎物語的解釈】
ビジネスは人間力だけではうまくいかない。才能のある人間を上手に使ってこそ成就するものである。ただし、才能のある人間は能力があるがゆえに不正を犯す恐れもある。それを防ぐためにはリーダーが人間力をもって、才能ある部下を導く必要があるのだ。


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