今日の神坂課長は、ひとりで「季節の料理 ちさと」にやって来たようです。

「ちさとママ、ご無沙汰してます」

「あら、神坂君、おひとり? 珍しいわね」

「うん、今日はひとりで飲みたくてね」

「なにか悩み事でもあるの?」

「うん、悩み事じゃないんだけどね。ちょっと思い切った買い物をしたんだけど、本当によかったのかなぁと思ってさ」

「何を買ったの?」

「中国古典の全集もので、『全釈漢文大系』ってやつを買ったんだ。辞典みたいな本が全部で33巻もあるやつね」

「すごいじゃない、いくらしたの?」

「中古で15万円。それでも市場の値段としては安い部類なんだけどさ。ただ、無駄な買い物だったかなぁと思い出してね・・・」

「神坂君らしくないわね。必要だと思ったから買ったんでしょ?」

「まあね。佐藤部長の影響ですっかり中国古典にハマってしまったからね。図書館で借りることもできるんだけど、やっぱり手元に置いておきたくなってね」

「それならいまさら後悔したって仕方がないんだから、それをどう活用するかを考えればいいじゃない!」

「さすがにちさとママだな。超ポジティブだよね」

「ふふふ。普段は神坂君の方が超ポジティブだと思うけど?」

「ははは。そうかな?」

「お金は自分の夢を実現するための手段にすぎないのよ。貯め込んだって仕方がないし、無駄遣いするのも良くないわ。ギャンブルに使うくらいなら、本に投資する方がはるかに素敵だわ」

「金は天下の周りもの、ってことか!」

「そうよ。その本でしっかり勉強して、お仕事に活かしてほしいな」

「やっぱりこういう時はちさとママだな。そういう背中を押す言葉が欲しいなと思うとママの顔が目に浮かぶんだ」

「あら光栄です!」

「ちさとで使うお金も無駄遣いじゃなさそうだな」

「そうよ、ウチはおいしいお料理とお酒もあるけど、それ以上にママの包容力がウリのお店ですから!」

「自分で言うかね?」


ひとりごと

個人においても勿論そうですが、企業においてもお客様から頂いた利益をどう活用するかは重要な問題です。

ある程度、現金として手元においておく必要はありますが、やはり積極的に明日のビジネスの種に投資をしていく必要があります。

私腹を肥やすのは問題外ですが、無駄な投資もいけません。

ビジネスとしてシナジーのある事業やプロダクトへの投資を心がけるべきでしょう。


【原文】
財は天下公共の物なり。其れ自ら私するを得可けんや。尤も当に敬重すべし。濫費すること勿れ。嗇用すること勿れ。之を愛重するは可なり。之を愛惜するは不可なり。〔『言志後録』第228日〕

【意訳】
財というものは天下の公共物である。けして私服を肥やしてはいけない。この点はもっとも尊重しなければならない。無駄遣いしてはいけないし、けちけちして出し惜しむのもいけない。大切にすることは良いが、惜しんではいけない

【一日一斎物語的解釈】
お金は天下の周りものである。私腹を肥やすのではなく、お金に働いてもらうことを考えるべきだ。無駄遣いはいけないが、有効に活用してこそお金を活かすことになる。


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