今日の神坂課長は、営業2課の石崎君の報告を受けているようです。

「状況はわかった。それで、次回はクロージングになるんだな?」

「はい、次回でしっかり注文をもらってきます!!」

「元気が良いのがお前の取柄だが、具体的にはどういう提案を持っていくんだ?」

「競合のF社はおそらく500万円を切る値段で見積りを提示しています。ですので、当社としては、それを下回る480万円で提示しようと思います」

「そのとき粗利率はどのくらいになるんだ?」

「O社さんから特価をもらいましたので、8%くらいは確保できます」

「500万で出したら、どうなる?」

「え、それは計算していません」

「アホか! 相手は500万円で見積りしているんだろう? それなら同額で提示しても良いじゃないか。なぜ、そこからスタートしないんだ?」

「・・・」

「製品評価はそこそこの感触を得ているって言ったよな。それなら同額で受注することを考えるべきじゃないのか? ちなみに、500万円で売れれば、粗利は12%になるぞ」

「そんなにですか?」

「石崎、俺がこの商談で指示した粗利率の最低ラインは覚えているよな?」

「はい、7%は確保しろと言われました」

「そうだな。で、7%確保する提示額はいくらになるんだ?」

「え、計算していません」

「あのなぁ・・・。石崎、商売というのは、ある意味でお客様との駆け引きだ。もちろん先方の希望額はあるだろうが、こちらにもこの価格で充分にお役に立てると考えている金額がある
よな?」

「はい」

「今回は、500万円の価値はない商品だと思うか?」

「いえ、充分にお役に立てる金額だとは思いますが、競合さんがいるので・・・」

「仕事を進めるときに、最善策だけを持って突っ込んだら撃沈するぞ。少なくとも次善の策くらいは準備しておくべきだ。今回の場合でいえば、500万円で提示し、落としどころを480万円に置く。しかし、競合の評価も高く、更なる値引きが必要なら最低ラインである7%ライン、今回だと472万円、これ以上で決めることを考える。これが商売の進め方じゃないか?」

「なるほど」

「感心している場合か! もう一回、自分でシナリオを組み立て直してから持ってこい。いいか、クロージングをかける以上、イエスかノーのどちらかを必ずもらってくるつもりで準備しろよ。『少し考えさせてくれと言われたらクロージングは失敗だぞ!」

「わかりました!」


ひとりごと

小生の周囲にも、ベストシナリオを描くだけで仕事をしようとする人が意外と多かったように感じます。

ベストシナリオだけでなく、ワーストシナリオも描き、かつ落としどころをある程度想定してから仕事を始めた方が、自分が期待する結果になり易いものです。

昔から、「押してもダメなら引いてみろ」という言葉があります。

これも次善策をもてというメッセージなのでしょう。


【原文】
器物には必ず正副有りて、而る後に缺事(けつじ)無し。凡そ将に一事を区処せんとせば、亦当に案を立てて両路を開き正副の如く然るべし。〔『言志後録』第229章〕

【意訳】
器物には必ず正副の二つを準備しておいてこそはじめてミスなく処理できるものである。同様に、ひとつの案件を処理する場合にも、正副2案を立てて対処をすれば間違いはないであろう

【一日一斎物語的解釈】
プランを練る際には、少なくとも最善策と次善策を立てておくべきだ。ベストシナリオだけで物事を進めると目論見が外れた際に収拾がつかなくなる恐れがある。


pdca_cycle_circle