営業部特販課の大累課長は、大学時代の先輩である軽部さんの自宅を訪ねているようです。
「軽部先輩、ご無沙汰をお許しください」
「そんなことは気にするな。こうして年に1回でも訪ねてくれるだけで俺は嬉しいよ」
「恐縮です」
「お前も課長になったんだよな? しっかりとメンバーのマネジメントはできているのか?」
「胸を張って『しっかりやっています』とは言い切れません。試行錯誤の連続です」
「いいじゃないか。人は失敗からしか学べないものだからな。お前のいる業界も大変なんだろう?」
「はい。競合との価格の叩き合いで年々粗利率は低下しています。おまけに物流については、いつアマゾンあたりが介入してくるかもわかりません。なんとか価格の叩き合いという世界から脱却したいのですが・・・」
「お前、以前に『論語』を学んでいると言ってたよな?」
「はい、先輩の読書会に参加しているレベルですが」
「それなら兵法書も読むといいかもしれないな。一般的に有名なのは『孫子の兵法』あたりか」
「兵法書ですか?」
「中国の古い兵法書というのはよく出来ていて、現代の戦争においても戦略立案の参考とされている。それだけではなく、ビジネスにも広く応用されているんだ」
「そうなんですか。『孫子』というのは聞いたことはありますが・・・」
「古くは、徳川家康が愛読したという『六韜(りくとう)』なんていう書もある。『孫子』などは、あのビル・ゲイツも愛読しているとして有名だよ」
「マイクロソフトのビル・ゲイツですか?」
「そう。兵法書を読んでいる経営者は多いぞ。お前もマネージャーになったんだから、競合戦略を練る上でも読んだらいい。私のおススメは『呉子』という兵法書だ」
「書店で売っていますか?」
「『孫子』の解説本はかなりあるから書店でも見つかるだろう。ただ、『呉子』はどうかな? やっぱりアマゾンじゃないか?」
「アマゾンは便利ですもんね。いつ敵になるかわかりませんが、あそことは上手にお付き合いしたいです」
ひとりごと
『論語』や『大学』などのいわゆる経書とならんで、古来読み継がれている古典に兵法書があります。
『孫子』を筆頭に、中国古典には武経七書と呼ばれる七大兵法書があります。
それ以外にも、『三十六計』なども面白い本です。
兵法書を読むと、中国の対外戦略がよく見えてきます。
ビジネスマンだけでなく、政治家の皆さんにもぜひ中国の兵法書を読んでもらいたいですね。
【原文】
兵書も亦宜しく一渉(いっしょう)すべし。孫・呉固より佳なり。孫子の筆録は兵法と亜(つ)ぐ。但だ書を著わすに意有るのみ。呉子は較(やや)著実なり。昔人も亦云えり。〔『言志後録』第233章〕
【意訳】
兵法書も一通り通読すべきものである。『孫子』・『呉子』はもちろん良い物である。孫子の文章はそれ以前の兵法書(『六韜』・『三略』)よりは一段劣るもので、ただ書を著すこと自体を意識している節がある。呉子はそれよりは着実で実際的と言えよう。昔の人も同じようなことを言っている。
【一日一斎物語的解釈】
中国古典を読む際は、『論語』などの経典だけでなく、兵法書を読むのも良い。『孫子』などは今でもビジネスに応用されている。ビジネスを経済戦争と捉えるならば、兵法書から学ぶことは多い。