今日の神坂課長は、「孫子兵法家」と自らを称している著名なコンサルタント、永井海(かい)氏の経営者・経営幹部向けの講演会に来たようです。

「『孫子』という兵法書がなぜビジネスでも大いに利用されるのか? それは、『孫子』という書物の基本原理が『戦わずして勝つ』ことに置かれているからでしょう」

「今から2千五百年以上も前に書かれたとされる書物に、情報の重要性が明確に記載されているのは驚くべきことです」

「いかに敵を知るか、その度合いで勝敗は決します。しかし、孫子は言います。『敵を知ったところで己を知らなければ勝てない』と。いわゆる彼我分析の必要性を説いているわけです」

「そのうえで、敵より先に動き、戦(いくさ)という手段を講じる前に勝敗を決するように仕向けていくのが理想の戦い方だと書かれています」

「戦をすれば、多額の出費が生まれ、多くの尊い命が失われます。どれだけ聖戦だと言い張っても、人の命を奪うことに義はありません」

「孫子は、道・天・地・将・法の五つの条件をよく検討せよ、と言っています。道とはいわば義、大義です。自分のビジネスに人に誇れる大義はあるでしょうか?」

「天とは時の運です。時を味方につけるには、精一杯努力することです。目の前の仕事に全力を尽くすのです。地とは、地の利です。自分に有利な土俵で戦えているかを常に考えてビジネスをすべきです。相手の土俵で勝負をしたのでは、損失が大きくなるからです」

「将とは、リーダーです。経営者であり、経営幹部の方は敵よりも有能なのかどうか。そして法とは組織統制です。組織の風通しは良いか? 方針や戦略はしっかり末端まで届いているのか? 逆に下からの意見は採用される風土になっているのか?」

「この道・天・地・将・法の五つの条件について、競合他社と彼我分析を行ない、自社の強みと弱みを明確にし、強みをより活かせる戦い方を選択すべきです。弱みを補うような戦略を主体にしては絶対にいけません!」

「ビジネスにおいても、戦わずして勝つことはできないかを徹底的に探るべきなのです。そうすれば必ずブルー・オーシャンが見つかります。これまでどおりレッド・オーシャンで消耗戦をしながら互いの体力をすり減らす道を選ぶのか? それともブルー・オーシャンで独り勝ちを目指すのか? それは皆さん方経営者の選択と舵取りに懸かっているのではないでしょうか?」

講演が終わり、神坂課長は電車に乗っているようです。

「川井さんはなぜあの講演会に俺を送り込んだのかな? まあ、そんなことより、すごく勉強になったな。大累の先輩が兵法書を読めと言った理由がよくわかった。俺ももう少し勉強してみよう」


ひとりごと

上記に記載した講演会はもちろん架空の講演会であり、ここに記載したのは小生なりの『孫子』の解釈です。(その点は割り引いてご評価願います)

しかし実際に『孫子』をビジネスに応用しているコンサルタントは多く存在しますし、実際に多くの企業で採用されています。

戦わずして勝つという戦略は、まさにブルー・オーシャン戦略ですよね。


【原文】
先づ勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つは、是れ其の手を下すの処なり。必ず全きを以て天下に争うは、是れ其の著眼の処なり。之を校するに計を以てして、其の情を索(もと)むるは、是れ其の秘密の処なり。〔『言志後録』第236章〕

【訳文】
孫子の兵法において、「先ず敵に負けない様にしてから、敵に隙が生まれるのを待つ」としているのは、最初に着手すべきことである。「無傷のままで天下の争いに勝つ」としているのは、重要な着眼点である。「道・天・地・将・法の五つの条件をよく検討して、その場の実情を探る」としているのは、兵法の奥義である

【一日一斎物語的解釈】
『孫子』とは、戦わずして勝つことを目指す戦略書であり、ビジネスにも大いに活用できる。『孫子』の各章を参考にして、常に敵より先に動くことを意識して、市況や敵の兵力、リーダーのキャラクターなどのデータを収集・分析して戦略を立案するとよい。


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