今日の神坂課長は、デスクで数字とにらめっこをしているようです。

「マズイなぁ。このままだと今期、ウチの課は計画を達成できないな」

「そうですよねぇ。あと2ヶ月とちょっと、これといった大口もないし、一件一件、案件を積み上げていくしかないですね」
本田さんが神坂課長に声をかけました。

「ここで決定打を放つのがエースである本田君の仕事だろう」

「できるだけのことはやるつもりです!」

「それでこそエースだ! しかし、こんな状況にもかかわらずイベントを企画したのは失敗だったなぁ。あのイベントは来期のネタ作りのためのものだからなぁ」

「課長、せっかく9月の初めに開催するのですから、今期の数字になるような手を打ちましょうよ」

「石崎、どういうことだ?」

「9月までに注文いただいたら値引きをするとか」

「期末に値引きをすると、翌年以降はお客様がそれを待つようになるからなぁ。安易な値引きやキャンペーンはやりたくないんだよ」

「・・・」

「あー、ごめん、ごめん。頭ごなしに否定してしまったな。期末キャンペーンみたいなものでなく、別の理由づけを考えてみてくれよ。来期以降に期待させることのないような企画だぞ」

「はい、考えてみます!」

「神坂課長、善久さんから電話です。外線2番です」

「梅田、ありがとう。もしもし、え! マジか! 怪我は? そうか、わかった。とりあえず、連絡を待っておくよ」

「課長、善久君どうしたんですか?」

「山田さん、参ったよ。あいつ、おかまを掘りやがった! 幸い、停車状態から始動したときに、前方不注意でぶつかったらしいから、相手に大きな怪我はないようだけどね。まったく、この忙しい切羽詰った時に、何をやらかしてるんだ、あいつは!!」
そのとき、佐藤部長が部屋から出てきました。

「神坂君、『酬酢紛紜にも、提醒の工夫を忘る可からず』だよ」

「なんですか、それ?」

「一斎先生の言葉だよ。『忙しいときこそ、心の平静を保ち、心をクリアにしておくべきだ』という意味だね」

「たしかに、なにかを試されているのか、って思うくらい、次々といろいろなことが起こりますよねぇ」

「実際に、試されているんだよ。神坂君の日頃の学問の成果がね!」


ひとりごと

真の学問というのは、立身出世のためではなく、周囲の出来事に一喜一憂しないような心をつくるためにある。

荀子はそう言っています。

栄える時は驕らず、失意の時に自身を失い諦めることのないような安定した心をつくる。

たしかに、これは難しいことですが、一生をかけて取り組んでみようと思います。


【原文】
酬酢紛紜(しゅうさくふんうん)にも、提醒(ていせい)の工夫を忘る可からず。〔『言志後録』第246日〕

【意訳】
人との応対に忙しいときでも、常に本心を目覚めさせる工夫を忘れてはいけない。

【一日一斎物語的解釈】
忙しいときこそ、学びの成果が問われるのだ。


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