事故を起こした善久君が、事故処理を終えて帰社したようです。

「おい、善久。お前、やってくれたなぁ」

「すみません。つい考え事をしながらアクセルを踏み込んでしまいまして・・・」

「まあ、相手が軽症だったことは不幸中の幸いだったな。それにしても、どんな考え事をしていたんだ?」

「実は、今日ご発注いただけると思っていた宮本メディカルクリニックさんから注文をもらうことができなくて、何がいけなかったのかと考えていました」

「マジか! お前、あそこはいけるって言ってたじゃないか?」

「はい、そう思っていたのですが、F社がすごい値段を提示してきたようで、すごく迷っているとおっしゃっていました」

「まだ負けた訳ではないんだな?」

「はい。こちらも提案を出しなおすということにしてもらいました・・・」

「お前、受注を逃した上に事故かよ! 勘弁してくれよー」

「まあまあ、神坂課長。とりあえず大きな事故にならなくて良かったじゃないですか」

「山田さん、それはそうだけどさぁ。善久、俺はいつも言っているよな。クロージングというのは、イエスかノーをもらってくることだ、って」

「はい。だから、なにがいけなかったのかを考えてしまいました・・・」

「善久君、考えることは大事だけど、それで運転を疎かにすることはとても危険なことだよ。もし、大きな事故になれば、被害者の怪我も大きなものになるだろうしね」
山田さんが優しく諭しています。

「それに、課長はいつも言っているよね。免許証は営業マンのパスポートみたいなものだ、って。運転するときには、運転に集中しないとね」

「さすがだなぁ、山田さん」

「なんだよ、石崎!」

「だって、課長は感情的にものを言うから、ゼンちゃんもビビッてしまって話が耳に入っていない感じだったけど、山田さんが話すと、すっと心が落ち着いた感じじゃないですか!」

「なんだと、このやろー!」

「ほら、また感情的になってる」

「くそー、ムカつくけど、たしかにお前の言うことは間違っていない。仕事に関する俺の軸を伝えるときは、山田さんのようにおおらかな気持ちで伝えないと伝わらないだろうな

「そうですよ! それにゼンちゃん。あれこれ考えるのもほどほどにしないとね。君の場合は、考えすぎて失敗するタイプだからさ

「おい、善久。どうだ、今の石崎の意見はもっともだと思うが、腹に落ちたか?」

「課長、正直に言います。なんか上からな感じでムカつきます!」

「だよなー!」


ひとりごと

リーダーとして自分の軸となる考え方を伝えることはとても大切なことです。

しかし、それを感情的に伝えてしまえば、想いは伝わりません。

わかっちゃいるけど止められない、というのが小生の一生の課題でもあります。

そのヒントを得て実践するために、これからも古典をひも解いていきます。


【原文】
道理は弁明せざる可からず。而も或いは声色を動かせば、則ち器の小なるを見る。道理は黙識せざる可からず。而も徒らに光景を弄すれば、則ち狂禅に入る。〔『言志後録』第247章〕

【意訳】
物事の道理については、分別をもって明確にしておかねばならない。ところが声を荒げたり、顔色を変えたりすれば、それはそのままその人の器の小ささを露呈することとなる。また、物事の道理とは、心中に悟るものであらねばならない。ところがやたらと心の中であれこれと考えすぎるようなことでは、野狐禅(真に悟りもしないで、悟った風をすること)になってしまう

【一日一斎物語的解釈】
マネジメントの軸となる考え方は、メンバーに周知徹底しておくべきであるが、大声を出したり、顔色を変えたりして強要すれば、それは自らの首を絞めることになる。なにをすべきかを考える時は、一人静かに判断をすべきであり、あまり考えすぎれば、かえって結果は悪い方向へ向いてしまう。


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