今日の神坂課長は仕事を終えて、佐藤部長と一緒に「季節の料理 ちさと」に来たようです。

「昨日、変な夢を見ましてね。ストーカーみたいな女にずっと追いかけられて、逃げまわる夢だったんです」

「神坂君、それってあなたの願望じゃないの?」

「ママ、誰がストーカーに追いかけられたいなんて願望を持つんだよ!!」

「そうじゃなくて、女性に追いかけられたいっていう下心がそういう悪夢を見させたんじゃないの?」

「なるほど・・・。って、違うわ!!」

「たしかに一斎先生は、夢というのは自分の心が見させるものだと言っているから、ママの言うこともあながち間違いではないんじゃないかな?」

「部長まで、勘弁してくださいよ」

「ははは。ごめん、ごめん。でもね、たとえば今日は良い一日だったと思って眠りについた日に悪い夢は見ないよね?」

「それはたしかにそうですね」

「何か不安だったり、不満があるときに、その気持ちを引きずったまま寝てしまうと、嫌な夢を見るものじゃないかな」

「やっぱり、神坂君。あなた、昨日何かあったんじゃないのー」

「なんだよ、ママ。その人を疑うような目つきは! 俺は潔白だ!!」

「そうやって強く否定するところが逆に怪しいなぁ」

「そういうママこそ、そんな風に考えるなんて欲求不満なんじゃないの?」

「それはそうよ、この年で独身なんだから!」

「おー、思い切り開き直りやがった!(笑)」

「まあ、いずれにしても、心穏やかな日々を過ごして、安心して眠りにつきたいよね」

「そうですねぇ。しかし、実際には毎日のようにトラブルやクレームもあるし、事故を起こす若造もいるしで、とても心穏やかには過ごせませんよ」

「そういう時こそ、心を鍛錬するときなんだよ。お互いに天から試されていると思って、鍛錬しよう!」

「そうですね」

「はい、では今日はこのレンズ豆と根菜のスープをどうぞ。レンズ豆には、安眠に欠かせない葉酸が豊富に含まれているのよ」

「レンズ豆? レンズみたいな形をしているの?」

「ははは。神坂君、逆だよ。最初に出来上がった凸レンズがこのレンズ豆の形に似ているところから、レンズと名前が付けられたんだよ」

「へぇー、それは知らなかった。いただきます!」


ひとりごと

夢は自分の心の鏡だということでしょうか? 

たしかに、気分良く眠れたときには悪い夢は見ないものです。

だからこそ、ユングなどの心理学では夢を分析することで、その人の思考の傾向や精神状態を把握できるのでしょう。

しかし、本当に良い仕事ができてぐっすり眠れたときには夢をみることがありません。

夢を見ることがない毎日が一番幸せだということでしょうか?


【原文】
一善念萌す時は、其の夜必ず安眠して夢無し。夢有れば、則ち或いは正人を見、或いは君父を見、或いは吉慶の事に値(あ)う。周官の正夢・喜夢の類の如し。又一妄念起る時は、其の夜必ず安眠せず。眠るとも亦雑夢多く、恍惚変幻、或いは小人を見、或いは婦女を見、或いは危難の事に値う。周官の畸夢・懼夢の類の如し。醒後に及びて自ら思察するに、夢中見る所の正人・君父は、即ち我が心なり。吉慶の事は、即ち我が心なり。皆善念結ぶ所の象なり。又其の見る所の小人・婦女も亦即ち我が心なり。危難の事も亦即ち我が心なり。皆妄念の結ぶ所の象なり。蓋し一念善妄の諸(これ)を夢寐(むび)に形わす、自ら反みざる可けんや。死生は昼夜の道なり。仏氏の地獄・天堂の権教を設くるも、亦恐らくは心の真妄を説くならん。此の夢覚と相彷彿たる無きを得んや。〔『言志後録』第251章〕

【意訳】
自分の心に善い思いが兆したときには、その夜は安眠でき夢を見ることもない。もし夢を見れば、そこには心の正しい人や君主や親を見るか、おめでたい夢を見る。これは『周礼』にある六夢の中の正夢や喜夢に当たる。また、心に悪い思いが兆したときには、安眠できない。眠りについても雑駁な夢を見て、うつろでぼんやりとしており、つまらない人や女性の夢を見たり、災難に遭遇した夢を見る。これは『周礼』にある六夢の中の(がくむ)や懼夢(くむ)に当たるだろう。目が覚めた後に思い返してみれば、夢に出てくる心の正しい人や君主や親は自分の心であり、おめでたいことも自分の心なのである。すべて善い思いから生じた現象である。また夢に出てくるつまらない人や女性、あるいは災難もまた自分の心である。すべて悪い思いが生み出した現象である。このように自分の心に生じた善い思いや悪い思いが夢に現れるのであるから、大いに反省しなければならない。死と生は、昼と夜のようなものである。仏教において地獄や天国の教理を設けているのも、恐らくは心の善と悪を説いているのであろう。これはきっと夢の世界と同じようなものではないだろうか

【所感】
善い出来事も悪い出来事も、自分の心が創り出すものである。つねに我が心を磨き、日々良い夢をみて、爽快な朝を迎えたいものだ。


akumu