今日の神坂課長は大累課長の愚痴を聴いているようです。

「神坂さん、雑賀の野郎は相変わらず口ばっかりなんですよ。デカイことを言う割には結果が出ないんです」

「それでこそ雑賀だろう!」

「冗談はやめてくださいよ! 毎日、あいつの大法螺を聞かされる身にもなってくださいよ」

「ごめん、ごめん。だけど、雑賀は常に新しいことに取り組もうという意欲はあるんじゃないのか?」

「たしかにそれはそうなんです。面白いところに目をつけるなぁと関心することも多々ありますからね」

「そこはあいつの素晴らしい長所だぞ。あとはいかに具体的な行動計画に落とし込ませるかじゃないのか?」

「もっと一緒に行動計画を練り上げないとダメということか?」

「そう思うけどな。ウチの善久なんか、若いのにそういう発想が足りなくて、どちらかというと守りに入るところが課題だからな。ちょうど真逆だな」

「石崎は雑賀タイプですか?」

「そうだな、間違いない。まあ、雑賀ほど大口は叩かないけどな。新しいことをやろうとする意欲は高いが、実行が伴っていない感じだな。まだ2年目だから当然だけどさ」

「善久タイプは他に、1課の廣田なんかもそうですね。あ、2課の山田さんもか」

「その二人はどちらかというと守りのタイプだよな。ただし、彼らは根っからの善人だから、決して悪いことはしでかさないだろうな」

「変わらなければいけない医療機器業界において、やはり新しいことに取り組ませることは重要ですよね」

「雑賀タイプは具体的な行動まで落とし込んで、定期的に報告をさせて、軌道修正すれば良いんじゃないか?」

「そうですね。それから善久タイプの場合は、まず発想転換をさせないといけませんね。今までのやり方を続けるだけではダメなんだということを理解させないと」

「そうだな。ただし、どちらのタイプにも長所がある。頭ごなしに否定するのではなく、長所をしっかりと活かせるような課題を設定してあげることが重要なんだろうな」

「俺、いま神坂さんと話しているんですよね?」

「はぁ? 突然何を言い出すんだよ」

「いや、俺がこういう風に愚痴を言ったら、一緒になってそれはダメだとか、あいつはアホだとか言うのが昔の神坂さんだったじゃないですか。俺としては愚痴を聞いてもらえるだけでいいなと思っていたんですけどね・・・」

「けど、なんだよ?」

「まさか、まともなアドバイスをもらえるなんて驚きだなぁと思って」

「失礼な奴だな! 大累、俺はもう昔の俺じゃないぞ。呉下の阿蒙にあらず(*)だよ」

呉下の阿蒙にあらず: 魯粛(ろしゆく)が呂蒙(りょもう)に会った時、その学識が以前より深まり豊かなのに驚いて、君は呉にいた頃の武略に長じているだけの阿蒙ではないな、と言ったという「三国志呉書呂蒙伝注」の故事。


ひとりごと

新しい事にどんどんチャレンジする意欲はあるが、実行が伴わないタイプもいれば、慎重に行動をするために、せっかく良いプランを持っていても結局出遅れてしまうタイプもいます。

こうした様々な性格の持主がいてこそ、健全な組織だといえるのではないでしょうか?

大事なことは、古い慣習を頑なに守ることではなく、時代の風を感じて、新しい手法や考え方を取り入れていくことです。

各自のキャラクターをよく把握し、つねにチャレンジ精神をもって、迅速に行動できるようにアドバイスをし、背中を押してあげることが、リーダーの大切な役割のひとつなのです。


【原文】
狂者は進みて取り、狷者は為さざる所有り。子路・冉有・公西華は、志進取に在り。曾晳は独り其の撰を異にす。而るに孟子以て狂と為すは何ぞや。三子の進取は事に在り。曾晳の進取は心に在り。〔『言志晩録』第2章〕

【意訳】
『論語』に「狂者は進みて取り、狷者は為さざる所有り」とある。孔子の弟子の子路・冉有・公西華は、その志が進取の気象に富んでいたが、同じく孔子の弟子の曾晳(そうせき)だけは少し違った意見を持っていた。それにもかかわらず孟子が曾晳を狂者としたのは何故であろうか。それは、前三者の進取の気象は事柄の上のことであり、曾晳の進取の気象は心の上のことにあったということであろう。(これは、『論語』先進篇にある以下の逸話が元になっている。孔子が門人の子路・冉有・公西華ならびに曾晳に各自その抱負をいわせたところ、前三者は進取的であったが、ひとり曾晳だけは「晩春の好時節に春服に着換えて、青年や童子を連れて郊外に散歩し、温泉に浴し涼風に吹かれ、歌でも詠じながら帰って来たい」といったのに対して、孔子は「わしも曾晳の仲間入りをしたい」と賛成した。)

【一日一斎物語的解釈】
自分のメンバー(部下)の中には、志は高いがやや突き進みすぎるタイプがある。また、引っ込み思案だが決して悪いことはしないタイプもある。よく性格を見極めた上で、どちらのタイプに対しても進取の気性(古い慣習にしばられず新しいことに挑戦する意欲)を養い、行動を後押しする必要があろう。


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