神坂課長が務めるJ医療器械は、会社として定めた夏休みはなく、各自が7~9月の間に3日間の休みを取得する制度のようです。

神坂課長は、メンバーの休みを優先させて、本人は出社しているようです。

「なんだ、お盆の時期だというのに、大累も新美も出社かよ」

「そういう神坂さんだって、出てきてるじゃないですか」

「大累、俺はお前らみたいな暇人と違うが、メンバーに優先的に休みを取らせてやるために出社したんだよ」

「それは俺たちも一緒ですよ。な、新美」

「はい」

「そ、そうか。わが社の営業課長はみんな立派だな。自分の損得を後回しにして、まずはメンバー優先で考えるところが凄いよな」

「ま、まあ、そうですけど。自分で言わない方がいいような・・・」

「うっ、新美。なんか俺が小さい人間に聞こえるような言い方はやめてくれる・・・」

「そうだよ、新美。神坂さんが小さい人間であることは、みんな知ってるんだからな。おっと、暴力はだめですよ!」

「ちっ、先輩をバカにしておいて、自分勝手な野郎だ。だけどさ、自分の利を後回しにして、他人の利を優先するというのは、まずはこういうところから鍛錬していくしかないよな」

「たしかにそうですね。お客様や会社の仲間に対して、利己より利他を意識することなら、比較的簡単にできますからね」

「そうだな。理不尽な先輩であっても、先輩や上司だということでそれなりの敬意をもつ鍛錬を積むのにも最適な先輩がいるしな」

「クソ生意気な後輩や部下が一丁前な口をきいてきても、だまって笑顔で受け流す鍛錬をするのにも最適な輩が揃っているよな」

「ははは。二人はそうやって争い合っている素振りをしながら、本当は仲良しですもんね。うらやましい関係ですよ」

「どこがや!!」

「仲良くないわ!」

「それはさておき、人間というものは、自分のことより他人のことを優先できる心を持っているはずなんだよ。それが生きていくうちに、いつの間にか自分の利を優先する欲が育ってしまう。そのことをよく理解して、常に日常生活の場において自分の心を磨くしかないんだよな」

「そうですね。学ぼうと思えば、どんな出来事からも学ぶことはできますね」

「さて、おいしい食事からも何かを学びに行こうじゃないか。お盆に働いているんだから、ちょっとリッチにうなぎでも食べようぜ!」


ひとりごと

私欲にまさる公欲をもつことを意識することについては、これまでにも何度も書いてきました。

その前提は、人間はそもそも公欲を前提にして生きることができる、という真理でしょう。

自分を後回しにして他人を優先するという鍛錬は、まずは家族、次に同僚、そしてお客様、最後に社会というステップで進めていくとうまく行くはずですね。

何事も、スタートスモールで始めることが永く続ける秘訣のようです。


【原文】
学者は当に先ず自ら己の心有るを認むべし。而る後に存養に力を得。又当に自ら己の心無きを認むべし。而る後に存養に効を見る。〔『言志晩録』第10章〕

【意訳】
学問をする者はまず自分自身に心(道心)を有していることを認めるべきである。それでこそ心を存養する上で得るものが大きくなる。また、同じく自分自身に欲心(人心)の無いことを認めるべきである。欲心があっては、心を存養するにも効果は薄くなってしまう

【一日一斎物語的解釈】
人は世のために尽くしたいという心を生まれながらに有していることを理解して、自己修養に励む必要がある。自分の利を優先するような心のまま自己修養を行っても大した効果は期待できない


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