今日の神坂課長は、会社を定時であがり、佐藤部長と帰りの電車の中にいるようです。

「最近、メルカリで本を買うことが増えましてね」

「メルカリ? 神坂君は若いね」

「少しでもお小遣いを節約するために、中古本を買うことが多いのですが、これまではヤフオクを使っていたんですよ」

「ああ、ヤフーのオークションなら私も使ったことはあるよ」

「ただ、あれは送料がマチマチでしてね。Bオフのサイトの古本は、送料が750円とかべらぼうに高いのがあったりするんです。ところが、メルカリは送料込みでおまけに即決できるので、便利でわかりやすいんですよね」

「なるほどね。それでメルカリは人気があるんだね」

「そうだと思います。ただ、欲しい本をあらかじめ登録しているのですが、サイトを見るタイミングで安い商品が買われてしまっていたりするので、そこそこリーズナブルな価格だと『今買わないと損をする』と思ってしまって、ついつい買いすぎてしまうのが欠点ですね」

「ははは。本当に読みたい本なのか、今読むべき本なのか、そういう軸を持っておけばそういうことにはならないんじゃないの?」

「なるほど、たしかにそうですね。買ったはいいけど結局読まずに積読というパターンは結構多いですから」

「以前、寺田一清先生から聞いた話だけど、森信三先生は本は1冊だけ買って、できれば帰りの電車の中ででも
いいからすぐに読み始めるべきだ、と言っていたらしいよ」

「それが正しい読書かも知れませんね」

「ただね、寺田先生はそれができないと笑っていらしたけどね」

「ははは。なんか安心しました。やっぱりそういう小さな欲望を抑えていくことから心の鍛錬は始めるべきなんですよね?」

「そうだね。一斎先生は、そもそも人間の知性というのは、そうした欲望を制御できるものだと言っているからね」

「読みたい本を1冊だけ買って、それを読み終えたら次の本を買う。自分の欲望を抑えるのには良い鍛錬になるかも知れませんね」

「実は、私も以前にやってみたんだけどね。3ヶ月も続かなかったよ」

「部長でもダメですか? そりゃ、私には無理だなぁ」


ひとりごと

大きな欲望を抑えるより、小さな欲を抑えることの方が難しいのではないでしょうか?

小生は積読の大家です。

家にどれだけ買っただけで読んでいない本があるのか想像もつきません。

まずは、そうした小欲を抑えることが大欲を抑えるための準備になるのかも知れませんが、小人にはなかなか難しいものですよね。


【原文】
人心の霊、知有らざる莫し。只だ此の一知、即ち是れ霊光なり。嵐霧(らんむ)の指南と謂う可し。〔『言志晩録』第12章〕

【意訳】
人の心の霊妙なはたらきは、何事も知らないものはない。この知性こそが、霊妙な光であって、人間の欲心を正しく導くものといえる

【一日一斎物語的解釈】
本来、人の心は善良であって、自らの欲を抑制できるはずである。


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