今日の神坂課長は、A県立がんセンター消化器内科の多田先生を訪れているようです。
「神坂、お前は世の中は平等だと思うか?」
「突然、難しい質問ですね。そうですねぇ、平等であるべきだとは思いますが、実際にはそうではないと思います」
「それは何故だと思う?」
「何故かと言われると・・・」
「それはそもそも人間の知力や能力が平等ではないからだよ」
「どういうことですか?」
「お前は今、課長だよな?」
「はい」
「課長のお前とあの少年、石崎だったか、彼ともし給料が一緒だったら、お前はどう思う?」
「それは納得できないですよ! あいつはまだ2年目ですからね」
「そうだろう。お前と彼とでは、仕事の能力に差があるからな」
「しかし、平等というなら、お前も彼も同じ給料をもらわなければいけなくなる」
「それだと世の中は滅茶苦茶になりますね」
「そうだ。だから平等を目指すのではなく、公平を目指せばいい」
「平等ではなく、公平?」
「お前と石崎とでは能力が違う。だからその能力に応じて給与に差をつける。これが公平だ
よ」
「ああ、なるほど」
「俺はな、神坂。少なくとも世の中は、人間に対して公平ではあると思っている。もちろん世界中のすべての国がそうだとは言わないが、今の日本はかなり公平ではないのか?」
「でも、貧富の差が拡大していませんか? 多田先生はそれも能力の差だから仕方がないと?」
「ある程度はな。しかし、貧富だけで人間を評価するべきではないと思う。金持ちが必ずしも幸せなわけではなく、日々の暮らしに困っている人がかならずしも不幸というわけでもないだろう」
「それはそうですけど・・・」
「いくら能力があっても、その能力を発揮していない奴にはチャンスは訪れない。つまり各自が能力に応じたパフォーマンスをしっかりと発揮すれば、天は公平な結果をもたらしてくれるんじゃないのかな?」
「そうかもしれませんね」
「神坂、マネジメントも同じだぞ。メンバーに対して公平を意識しろ。メンバーの能力をしっかり把握して、公平に対処することだ。公平を意識しつつ、自分のことは後回しにして、メンバーやその先にいる顧客を優先したマネジメントをすれば、メンバーは間違いなくお前を信頼してくれるはずだ」
「多田先生、ありがとうございます。平等ではなく公平。自分よりメンバー優先。それを強く意識してマネジメントしてみます!」
ひとりごと
公平と平等については、いろいろな意見があることと思います。
小生は人間は平等に生まれてきてはいないと考えています。
つまり能力差をもって生まれてくるということです。
しかしながら、そもそも持って生まれた能力を100%開発し、発揮できている人は稀でしょう。
問題はいかに自分の能力を開発し、それを発揮するかにあるのではないでしょうか?
マネージャーは、メンバーの能力をよく見極め、能力開発をサポートし、その能力を発揮する場を提供することを意識すれば、結果として良いマネジメントができるはずです。
【原文】
物我一体なるは即ち是れ仁なり。我れ公情を執りて以て公事を行なえば、天下服せざる無し。治乱の機は公と不公とに在り。周子曰く、「己に公なる者は人に公なり」と。伊川又公理を以て仁字を釈(と)き、余姚(よよう)も亦博愛を更(あらた)めて公愛と為せり。并(あわ)せ攷(かんが)う可し。〔『言志晩録』第22条〕
【意訳】
物と自分とが一体であるということが、そのまま仁なのである。私情のない公の情をもって公事すなわち政治を行なうならば、天下の人々はかならず服すものである。世の中が治まるか乱れるかの兆しは、公平か不公平かにある。周濂渓は「自分に対して公平無私の人は、他人に対しても公平である」と言った。程伊川も公理を仁であると解釈し、王陽明も博愛を公正な愛情とした。政治を執り行う際には、これらのこと併せて考えるべきである。
【一日一斎物語的解釈】