今日の神坂課長は、善久君と同行中のようです。

「課長、お客様の心を読むというのは難しいですね」

「そうか、今お前はそこに悩みを感じているのか?」

「はい。このお客様は買ってくれるなと思うと買ってくれなかったり、この人は買わないなと思ったら注文をくれたり、いつも迷いと驚きの連続です」

「ははは。いいねぇ、若いって。俺なんか日々眠気との戦いだからな」

「戦う相手がショボくないですか?」

「やかましいわ! 笑いをとろうと思っただけだ」

「でも、面白くなかったです」

「言うか? 上司が一所懸命に場を和まそうとしているのに、それを言うか?」

「あ、すみません」

「笑いをとろうとして失敗して、おまけに謝られるとすごく気まずさを感じるな」

「あ、すみません!」

「もういいよ。ところで、そのお客様の心を読むってことに関連して質問がある」

「はい」

「お前、明日までに英語を完璧に話せるようにして来れるか?」

「課長、ちょっとおかしくなったんですか? そんなことできるわけないじゃないですか!」

「だよな。どのくらいの期間が欲しい?」

「せめて半年は欲しいです」

「そうだろう。お客様の心を読むことだって同じだよ。学び、気づき、実践を繰り返しながら、そこに失敗というしょっぱい経験を加えて徐々に身につくものだ」

学び、気づき、実践・・・」

「そう、幸いにも俺たちはお金をもらいながらその鍛錬ができるんだ。お客様の心を読む力をつけたいなら、まずそういう本を読んだり、先輩の話を聞いてみる。そこで、なにか新しい気づき、自分ではやっていないことに気づく。そして、それを即実践するんだよ」

「はい」

「そして、失敗する。まず間違いなく何度か失敗する。その失敗から何がいけなかったかを学び、新しい気づきを得て、次なる実践につなげるんだ」

「なるほど」

「仕事であろうとスポーツであろうと勉強であろうと、なにごともステップというものがある。それを飛ばして一気に何かをマスターしようと思っても、それは無理だ。無理をすれば、必ずその報いがくる。焦るな、善久。たくさん経験し、たくさん失敗して、一人前の営業マンになれ!」

「はい、そうします。あっ!」

「どうした?」

「スピードで捕まっちゃいました。警官が旗を振ってこっちに来いと言ってます」

「これも失敗という貴重な経験になる、と思う・・・」


ひとりごと

書店に行くと『3分で○○できる法』といったタイトルの本が平積みされているのをよく目にします

いつからか、誰もが手っ取り早く学びたいという考えに染まってしまったようです。

しかし、本当になにかを学んだり、マスターするには、時間と経験が必要なはずです。

着実に成長する道を選ぶ人が最後には勝者となるのです。


【原文】
学に次第有るは、猶お弓を執り箭(や)を挾(さしはさ)み、引満して発するがごとし。直ちに本体を指すは、猶お懸くるに正鵠(せいこう)を以てして必中を期するがごとし。〔『言志晩録』第25条〕

【意訳】
学問を行なうには順序がある。それはあたかも弓を手に持ち、矢をはさみ、それを満月のように引き絞った後に矢を発するようなものである。すぐに本体すなわち修己治人を目指すということは、弓の的を懸けておいて必ず命中することを期待するようなものであって、期待すること自体が間違いである

【一日一斎物語的解釈】
なにごとも一足飛びに成就するものはない。仕事も学問も同じである。段階を踏んで着実に成長していくしかない。


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