課長会議(昨日参照)終了後、総務部の大竹課長、営業部の神坂課長、大累課長は3人でランチに出かけたようです。

「大竹さん、先ほどは熱くなってしまってすみませんでした」

「大累君、気にしないで。大累君の言いたいことはよくわかってるからさ」

「さすがはタケさんだ、伊達に年を食ってないな」

「おいおい、神坂君。人を長老扱いするなよな。大累君は若い頃のどこかの誰かさんと比べれば、言い方も優しいし、表情もおだやかだからね。こっちも冷静に対応できるの!」

「大竹さん、どこかの誰かさんて?」

「俺に決まってるだろ! タケさん、それは若気の至りってやつでしょ」

「まず言葉遣い。先輩に向かって『てめぇ』だよ。それに眼つき。完全に殺気を感じたもんな」

「やめてくださいよ。なんかそれじゃあ、俺が極悪非道の人間みたいじゃないですか」

「あの頃は、極悪非道の奴だと思ったもん」

「ははは」

「でも、たしかにその頃は自分の意見が絶対だと思って、相手を打ち負かしてやろうとばかり考えていたなぁ」

「いつから、それじゃいけないと思うようになったのですか?」

「榊が退職した件がきっかけだよ。あいつとはしょっちゅう喧嘩をしていたが、俺はそれでも、お互いに分かり合えていると思っていたからな。それが、退職すると聞いたときには、しばらく言葉が出なかったよ」

「たしかに榊は生意気でしたけど、優秀な奴でしたよね」

「あいつを辞めさせたのは俺だからな。会社に対して申し訳ないという気持ちで胸が押しつぶされそうだったな」

「あの時の神坂君の凹み方は尋常じゃなかったね」

「まじめに、3日間くらい何も食えなかったですよ。そうだ、それで佐藤部長に辞表を出したんです」

「えっ、そうだったの? それは知らなかった!」

「その時に、佐藤部長に諭されたんです。議論する時には、お互いの意見の相違点ばかりでなく、共通点に目を向けるべきだと言われました。それをしっかり確認した上で、相違点を調整すれば、議論が喧嘩別れすることはないと」

「さすがは佐藤さんだなぁ」

「へぇー。神坂さんが辞表を出したなんて、まったく知らなかったです」

「部長は、この辞表は預かっておくよといって引き出しにしまったんだ。そして、俺が課長になったとき、俺の目の前でそれを破ってごみ箱に捨てた」

「もう今の神坂君なら、メンバーを榊君と同じような気持ちにすることはないな、っていうメッセージかな?」

「そう受け取りました。だから、今はディスカッションで意見がぶつかると、まず共通点を先に探すことを意識できているんですよ」

「失敗を見事に活かしているねぇ。よくぞ更生したな、元極悪非道の青年!」

「だまれ、ジジイ!」


ひとりごと

ディスカッションの際に、矢印が相手にばかり向いてしまうと、意見の相違が受け入れられなくなります。

しかし、社内の会議はディベートではありません。

議論に勝つことが目的ではなく、お客様のために最善の策を講じることが目的のはずです。

そうだとすれば、ゴールは同じで、そこへたどり着くためのルートの違いを議論しているということに気づきます。

あとは、コストやスピードを比較検討して、どちらの案が妥当かを議論すればよいのです。


【原文】
惺窩藤公は林羅山に答えし書に曰く、「陸文安は天資高明にして措辞渾浩(そじこんこう)なり。自然の妙も亦掩(おお)う可からず」と。又曰く、「紫陽は篤実にして邃密(すいみつ)なり。金渓は高明にして簡易なり。人其の異なるを見て、其の同じきを見ず。一旦貫通すれば、同じか異なるか。必ず自ら知り、然る後已まん」と。余謂う「我が邦首(はじめ)に濂・洛の学を唱うる者を藤公と為す。而して早く已に朱・陸を并(あわ)せ取ること此の如し」と。羅山も亦其の門より出ず。余の曽祖周軒は学を後藤松軒に受け、而して松軒の学も亦藤公より出ず。余の藤公を欽慕する、淵源の自(よ)る所、則ち有るか爾(しか)り。〔『言志晩録』第28条〕

【意訳】
藤原惺窩公が弟子の林羅山に答えた書には、「陸象山は天性が見識高く明敏であって、文章が流麗で雄大である。自然の妙趣もかくし難いものがある」と述べている。また、「朱子は篤実であり、奥深く精密である。陸象山は見識が高く明敏であって、簡明平易である。人々はその相違点ばかりに着目して、共通点を見ない。一度その思想の根本をたどれば、異なるか同じかは自ずとわかるもので、論ずるまでもないことである」とも述べている。私はこう言いたい、「わが国で最初に周濂渓と二程子の学を唱えたのは藤原惺窩先生である。先生は早くもその当時、朱子と陸象山の学を兼ね備えておるということは、この書をみれば明らかである」と。林羅山も惺窩先生の弟子である。自分の曾祖、周軒は後藤松軒に学んだが、その松軒の学も惺窩先生から出ている。自分が惺窩先生を深く敬慕する理由はまさにここにある

【一日一斎物語的解釈】
意見がぶつかるとき、人はその相違点にばかり着目するが、お互いが同じ目標に向かって、高い見識や熱い想いをもっているのであれば、共通点こそが重要である。共通点に焦点を当てれば、素晴らしい結論に導くことも可能である。


figure_goal_race