今日の神坂課長は、佐藤部長と一緒に「季節の料理 ちさと」にやって来たようです。

「あら、神坂君。なんか久しぶりね」

「ママ、ご無沙汰してごめん。俺に会いたかったでしょ?」

「そうねー」

「なんだよ、その嘘くさい笑顔は。完全に『心と裏腹ですって顔に書いてあるじゃん」

「お、神坂君。人の心を読むのが上手になったわね!」

「当たってるんかい!!」

二人はカウンターに腰かけたようです。

「心と裏腹といえば、先日、暇だったので、家でずっと参院選の候補者の政見放送を観ていたんですけどね」

「面白い時間のつぶし方だね」

「いや、実は例のN国の立花氏の政見放送を観るつもりだったのですが、そこからついつい色々な候補者のも観てしまっただけなんです」
「なるほど」
「それで、凄く感じたのは、今の政治家は言葉だけを飾っているのですが、誠をまったく感じないんです。立花氏にいたっては、政見放送で『カーセックス』を連呼する輩ですから、問題外ですけどね」

「たしかに今の政治家が四書などの経書をどれだけ読んでいるのかは疑問だもんね。古典を読んで、実践し、徳を積んでいないから、誠がないんだろうなぁ」

「徳を積んでいないからか・・・。隠徳を積むってやつですね?」

「そうだね。人知れず努力し、心を磨くということをしないと徳が磨かれない。それをしていない人の言葉には誠がないから、相手の心に響かないんだろう」

「私の言葉もどれだけメンバーに響いているのか、心配になってきました」

「大丈夫だよ。神坂君の話には実践で学んだリアリティがあるからね。言葉を飾らなくても、想いが伝わってくるよ」

「ありがとうございます。部長はいつでも部下を持ち上げる天才ですね!」

「あれ? 今の言葉には誠を感じなかった?」

「いやいや、そういうことじゃないですよ。ママ、料理まだー?」

「はいはい、今日は高知県産のヒラマサのお刺身です。ブリ御三家と呼ばれるお魚のなかでも、一番おいしいのよ」
「ブリ御三家?」

「ブリ、カンパチ、ヒラマサをブリ御三家って呼ぶの」

「どれどれ。おーーーっ、旨い。旨過ぎる!!」

「よし!」

「えっ?」

「今の言葉には誠を感じたわ!」


ひとりごと

『論語』の言葉に、

徳有る者は必ず言あり。言ある者は必ずしも徳有らず。(憲問第十四)

とあります。

徳を積めば自然と言葉に誠が籠るということでしょう。

言葉を磨くことも大切ですが、心を磨かずして言葉を磨いても意味がないということです!


【原文】
古の儒は立徳の師なり。「師厳にして道尊し」。今の儒は則ち立言のみ。言、徳に由らざれば、竟(つい)に是れ影響のみ。何の厳か之れ有らん。自ら反(かえ)りみざるべけんや。〔『言志晩録』第40条〕

【意訳】
昔の儒者は徳を有している師であった。「師に尊厳があれば、その説く道も尊くなるものだ」。今の儒者は言葉だけである。徳のない人の言葉は、実態を伴わないので空虚であって、尊厳さなどはまったくない。よく反省してみなければならない

【一日一斎物語的解釈】
徳のない人の言葉は人の心を揺さぶることはない。実践から学び、徳を身につければ、言葉はさほど重要ではない。


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