今日の神坂課長は、佐藤部長と一緒に仕事帰りに本屋さんに来ているようです。
「ブックランド・バディーズってこんなとこにあったんですね。前から一度寄ってみたいと思っていたんです」
「ここは店主のするめさんが、ご自身で厳選した本だけを置いているんだ」
「店主は『するめさん』って言うのですか?」
「みんながそう呼んでいるんだよ。噛めば噛むほど味が出る人ってことらしいけどね」
「あ、あの人がするめさんですね?」
「こんばんは。はじめまして、店長のするめです」
「神坂といいます。佐藤の部下でして、この人の影響で最近は読書をするようになりました」
「神坂さんは本を読んでいる人の顔をしていますね」
「そんなことがわかるのですか? 多田先生みたいだな」
「本を読んでいる人とそうでない人は顔を見ればすぐにわかりますよ」
「さすがは本屋さんだなぁ。ところでするめさん、何か新しい世界に踏み込んでみたいのですが、お薦めの作家さんっていますか?」
「実は私は作家さんを薦めることはしていません。どんな作家にも佳作と駄作があります。あくまでも1冊の本を紹介するというのをポリシーにしているのです」
「おー、素晴らしいなぁ。私は今、主に中国の古典を読んでいるのですが、たまには現代の作家の本も読んでみたいと思いましてね」
「佐藤さんの部下ということは、神坂さんも営業マンですよね? それなら、この『営業という生き方』は良いですよ。著者の中村さんは若い頃、ある伝説的な営業マンから、『お前は営業という職業を選んだのか、それとも営業という生き方を選んだのか』と問われたそうです」
「営業という職業、営業という生き方・・・。深いですね」
「はい。私もこの本を読んで、営業マンではないですが、本屋を営業している人間として多くの気づきを得ました」
「ありがとうございます。その本を買います」
「するめさん、神坂君は『易経』の良い参考書も探しているらしいんだけど、何かお薦めはある?」
「朝日選書から出ている本田済さんの『易経』をお薦めします。この本、実は私が『易経』を勉強しようと思ったときに、竹村先生からお薦め頂いた本なのです」
「えっ、あの竹村亞希子先生のお薦めですか? それは間違いないですね! じゃあ、それも一緒にお願いします。するめさんの本の紹介にはすごい説得力がありますね。作家でなく、コンテンツで選ぶというとこ
ろがとても気に入りました」
「お買い上げありがとうございます。ぜひ、いつでも遊びに来てください。おいしいコーヒーも淹れていますから」
ひとりごと
読書好きが書店を訪れる大きな楽しみのひとつが、自分の知らなかった本との出会いでしょう。
特に、本に詳しい店主さんから薦められた本なら間違いはありません。
今回、登場した店主さんのモデルは、大阪の伊丹市にある『ブックランドフレンズ』のこんぶ店長です。(ストーリーはフィクションです)
ここに行けば、こんぶさんからあなたの知らない世界を紹介してもらえるはずです。
平日は朝6:30から営業していますので、会社に行く前に寄ることもできます。
関西にお住まいの方は、ぜひ一度訪れてみてください。
【原文】
朱子は『春秋』伝を作らずして、『通鑑綱目』を作り、『載記(たいき)』を註せずして、『儀礼経伝通解』を編みしは、一大識見と謂う可し。『啓蒙』は欠く可からず。『小学』も亦好撰なり。但だ『楚辞註』と『韓文考異』は有る可く無かる可きの間に在り。『陰符』と『参同』に至りては、則ち窃(ひそ)かに驚訝(きょうが)す、何を以て此の泛濫(はんらん)の筆を弄するかと。〔『言志晩録』第48条〕
【意訳】
朱熹が『春秋』の註解を作らずに、『資治通鑑項目』を作り、『礼記』を註釈せずに、『儀礼経伝通解』を編集したのは、一大見識というべきである。『易学啓蒙』は欠くことができない。朱子が劉子澄に編纂を指示した『小学』も好著である。ただ『楚辞集註』と『韓文考異』は有っても無くてもよい。道家の『陰符』と『周易参同契 』の註釈書である『陰符経考異』と『周易参同契注』を編纂したことについては、どうしてこのようなとりとめのない著述をしたのであろうかといぶかるところである。
【一日一斎物語的解釈】