シンガーソングライターの笠谷俊彦は、最新アルバムの曲作りの仕上げに入っていた。

「ふちさん(作詞家・ふちすえあき)の詩は本当にシンプルで飾りがないですよね」

「それがあの人の詩の特徴であり、他の作詞家が真似をできないところさ」
マネージャーの和田である。

「俺の想いはすべてふちさんに伝えました。ふちさんは、その想いに加えて、ふちさん自身の描くサクセスストーリーを重ねたと言っていました」

「俺も詩を読ませてもらったが、魂を揺さぶられたよ」

「俺以上に、俺の想いを言葉に置き換えてくれました!」

「このアルバムの物語のとおりにお前が夢をつかむことを想像したら涙が止まらなかった」

「和田さん・・・」

「ふちさんの作詞術をお前もしっかり勉強しろよ。ふちさんの詩に比べると、これまでのお前の詩はやはり余計な飾りが多かったように思うな」

「うん、それはまったく同感だよ。つい恰好をつけてしまうのが俺のダメなところだった。難しい言葉や昔の言葉を混ぜれば詩が高尚になると考えていた」

「それはかえってマイナスだったんだな」

「そうだね。でも、ふちさんみたいにシンプルにするのは、すごく大変だよ。恐らくふちさんは、膨大な量の詩を書いて、そこからどんどん言葉を削ぎ落してここまでたどり着くのだと思う」

「あの人は、一曲の物語を書くときに、その前後のことまで明確にイメージするらしい。曲にはまったく書かれていないことをな」

「すごい! そんな発想は俺にはなかった。今度会う時に、歌詞になっていない物語を聞かせてもらいたい」

「企業秘密かも知れないぞ」

「それなら仕方ないけど、あの人はそんなケチな人じゃないよね?」

「俺もそう思う」

「これだけシンプルで力強い詩に曲をつけるというのは、かえってすごく難しかった。俺も全12曲すべてに複数のメロディーを作ってみた。曲によっては5パターンのメロディをつくった曲もある。後は、和田さんと一緒にどの曲にするかを決めたいんだ」

「よし、じっくり聞かせてもらうよ」

(笠谷俊彦の物語をはじめから読みたい方は、第1586日、1587日、1599日、1613日、1631日、1641日、1647日をご覧ください)


ひとりごと

コミュニケーションとは、相手がどう受け取ったかで決まります。

コチラの想いが誤って伝わったとすれば、それは伝え方の問題なのです。

伝えたいことがあるなら、文章や言葉を飾る必要はありません。

ただその想いを真直ぐに伝えれば良いのです。


【原文】
文は能く意を達し、詩は能く志を言う。此の如きのみ。綺語麗辞、之を佞口(ねいこう)に比す。吾が曹の屑(いさぎよ)しとせざる所なり。〔『言志晩録』第51条〕

【意訳】
文章は自分の思いが伝わればよく、詩は自分の心の在り様が伝わればよい。ただそれだけである。みだりに美しく飾った言葉や文章は、こびへつらいのようなもので、我が門においては必要のないものである

【一日一斎物語的解釈】
コミュニケーションは、自分の想いが相手に正しく伝わることが重要である。飾った言葉を使うことに必要以上に時間をかける必要はない。


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