今日の神坂課長は、N鉄道病院名誉院長の長谷川先生のご自宅を訪ねたようです。

「神坂君、この世の中って面白いよね」

「は、はい? 何がですか?」

「昨年、僕の友人が亡くなったんだけどね。その半年後にお孫さんにお子さんが生まれたんだ。つまりひ孫だよね」

「そうですね・・・」

「そのひ孫の名前が嶺太(れいた)君と名付けられた。ところで、その友人の名前は峰太郎という名前でね。彼の戒名にはその『嶺』の字が入っていたんだよ」

「まるでひ孫さんは、ひいおじいちゃんの生まれ変わりみたいですね?」

「まさに生まれ変わりのようだよね」

「凄い話ですね。当然、その名付け親は戒名のことは知らなかったんですよね?」

「知らなかったらしいよ。驚いたと言っていたからね」

「やっぱりすべては宇宙の摂理で貫かれているんでしょうかね?」

「うん。僕たちは自分の意志で何かを決めているようで、実は大きな何かに動かされているのかも知れないね」

「不思議ですねぇ」

「『淮南子』という古典にはね、『 天地の道は極まれば則ち反(かえ)り、盈(みつ)れば則ち損(そん)ず』とある。これはまさに宇宙の摂理のことを言っているんだろうね」

「私は最初に佐藤の部下になったとき、なんて面倒な人の下についたんだろうと自分を呪いました。(笑)」

「でも、今となっては、その出会いが神坂君の運命を変えたんだね」

「はい。その時は自分が古典を読むことになるなんて思ってもみなかったですから」

「そう考えると、人の一生というのは見事な物語になっているのかもね」

「そうですね。果たして私の人生の物語はどんなラストを迎えるのかなぁ」

「神坂君のラストシーンは、なかなか壮大なスケールになるかもね。私は淡々とした終わり方がいいなぁ」

「長谷川先生、私も穏やかに逝かせてください!」


ひとりごと

実はこの物語の戒名の話は実話です。

小生の祖父の戒名と息子の名に同じ「嶺」の字があるのです。

息子の名付け親は小生ですが、名前をつけた時点では祖父の戒名を知りませんでした。

そのとき、息子は祖父の生まれ変わりなんだなと気づきました。

こうした不思議な出来事は皆さんの周りにいくらでもあるでしょう。

やはり、我々は宇宙の摂理の中で生かされているのでしょうね。


【原文】
宇宙間に一気斡旋す。先を開く者は必ず後を結ぶ有り。久しきを持する者は必ず転化有り。抑える者は必ず揚り、滞る者は必ず通ず。一隆一替(いちりゅういったい)、必ず相倚伏(いふく)す。恰(あたか)も是れ一篇の好文辞なり。〔『言志晩録』第54条〕

【意訳】
宇宙の間には気があって調和を保っている。先に開いたものは後でそれが結合する。長く持続したものは必ず変転する。抑えつければ必ず揚り、滞ればいつかは通じる。このように盛んになることと衰えることは、常に交互に繰り返されている。これはまるで一篇の優れた文章のようである

【一日一斎物語的解釈】
万物は宇宙の摂理に貫かれている。盈れば必ず損ずるのが世の常である。まるで人の一生は、一編の優れた小説のようでもある。


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